第四話 幼馴染
[side ネール]
ネール「…ん、ん〜〜〜っ!…ふぅ…よく眠れたなぁ…。」
次の朝…。私にとってはこの世界にやってきてから最初の朝を迎えた。
ネール「…でも、相変わらずアシマリのままか…。私は何のためにこの世界に来たんだろ…。…目が覚めるとそこにレイドがいて、自分の姿はアシマリになってた…。そこから前の記憶も全然ないし、今になっても思い出せない…。」
私は自分の姿をぼんやりと見つめながらこの世界に来る前のことを思い出そうとしていた。だけどいくら考え込んでも思い出すことはなかった。…やっぱり私、記憶喪失になっちゃってるみたいだね…。
レイド「…うう…ん?あ…おはよう…ネール…。早いな…。」
ネール「…あ、おはよ、レイド。」
そんなことを考えているとレイドが起きた。私よりも少し後に起きたけどレイドも相当早いみたいだね。
レイド「ネールって結構早起きみたいだね…。ぐっすり眠れたか…?」
ネール「うん、もうばっちり!…って、そういうレイドは?ちょっと寝覚め悪いみたいだけど…。」
…って、レイドの普段の寝覚めを見ているわけではないんだけどね…。でも目が半開きになっていて今にも大きな欠神をしそうなぐらいの眠気がレイドには残っているようで寝覚めの悪さがうかがえた。
レイド「ああ…うん…。昨晩ちょっと不思議な夢を見てな…。」
ネール「…不思議な夢…?」
不思議な夢という言葉に私は思わず首を傾げてしまう。…続けて話そうとする時、何か言ってたような気がしたけど…。
レイド「…実は昨日、気が付くと不思議な空間にいたんだ…。夜空のような紫色のした不思議な空間に…。するとどこからか声が聞こえてきたんだ。」
ネール「…声…?」
レイド「うん。…その声は何かを俺にお願いをしようとしていたみたいなんだけど…。…あんまり覚えてないんだ…。」
ネール「えっ?」
レイド「あの夢は初めて見たからはっきりとは覚えてないんだ…。」
ネール「そう、なんだ…。」
レイドにとってはその夢は初めて見るものみたいで、断片的なものでしか思い出せていないみたいだった。…肝心の部分が思い出せてないのはちょっと残念だけどね…。
レイド「…さて、そろそろ起きようか。」
ネール「うん、そうだね。」
レイドは大きく欠神した後にそう言って、私と一緒にレイドの部屋から出ることにした。
〜オル・ナレア 広場〜
あの後、私たちはソウルさんと一緒に朝食を済ませた。…今日もおいしかったよ。そしてソウルさんから「広場を見て回ってはどうだ?」という提案で私たちは村の中心に位置する広場へとやってきていた。
広場は村民のポケモンが多く通る交流の場。親しいポケモン同士の世間話や、最近広がっているというダンジョンの話、そういったことで話すポケモンたちがいたり、カクレオンが営んでいるお店やガルーラのカフェもある。
広場の奥には何やら丁重に祀られている二つの大きなポケモンの像があり、そこに手や前足を合わせお辞儀しているポケモンもいた。
ネール「結構にぎやかなんだね。」
レイド「うん。でも村の外にある町と比べるとまだ落ち着いた方だよ。村の外にある町はここよりずっと広いし、ポケモンも多くてもっとにぎやかなんだ。」
「あっ!レイド!今日も元気そうだね!」
そんなことを話していると、前からレイドを呼ぶ声が聞こえてきた。薄く茶色い体色に首輪のような鋭く尖った岩がある首、レイドと似て対照的な瞳を持つ水色の目。子犬のポケモンがこちらの方にやってきた。見たところ、私たちと同じ年代みたいだね。
レイド「あっ、スレイ!そっちも相変わらず元気そうだね。」
スレイ「うん!…ってレイド、その子は?ここらでは見かけないけど…。」
するとスレイと呼ばれたポケモンはレイドの後ろにいる私に気づいた。
レイド「ああ、こっちは昨日村にやってきたネール・アルティナだ。」
ネール「え、ええと…よろしくね…。」
突然の自己紹介だったからちょっとたどたどしい感じになってしまった。
スレイ「へぇ〜、そうなんだ…。僕はイワンコのスレイ。
スレイ・エクリデア。よろしくね!」
それに対し、スレイというイワンコの彼はそんなことは気にせず、元気よく挨拶してくれた。
レイド「スレイとは小さい頃からよく一緒に遊んでいる幼馴染なんだ。ちょっとマイペースだけど、元気いっぱいなんだ。」
スレイ「小さい頃はよくレイドと一緒にダンジョンへ遊びに行ったなー。その時お父さんやソウルさんにこっぴどく怒られたっけ。」
レイド「もう…そんな過去のことを話さないでよ…。」
ネール「ふふっ、二匹って仲が良いんだね。」
レイド「まあ、付き合い長いからな…。」
スレイ「そうだね。11年もの付き合いだからね。」
そのあとも、数分間スレイと交えて他愛のない話で盛り上がったレイド。…私は混ざれなかったけどね。
レイド「じゃあまたね。スレイ。」
スレイ「うん!またね、レイド!」
ネール「幼馴染か…。いろんな関係を持ってるんだね…レイドは…。」
ふと、私は木の実畑へと向かうスレイの後ろ姿を見ながらそんなことを呟いていた…。