第三話 村での日常
[side ネール]
レイドの案内で私は「
オル・ナレア」という小さな村へとやってきた。あちこちに木で造られている小さな家がたくさんあり、たくさんのポケモンが暮らしているのどかな村だった。着いた時にはすでに夕方になっていた。
レイド「よし、着いた!ここが
使者祀りし村、オル・ナレアだ。」
ネール「へぇ〜、結構のどかな村なのね。」
レイド「うん。ただ、ここは森の外からポケモンが来ることはあまりないんだ。だから外のポケモンにはこの村はあまり知られていない。お客さんや冒険家だって来ることが少ないんだ。」
ネール「そうなんだ…。」
私はレイドと歩きながらこの村について簡単に聞いていた。確かに周囲で歩きまわる村のポケモンたちからは不思議な目で私を見ていた。…ちょっと恥ずかしかったかな…。
そんな村のポケモンたちからの注目を浴びながら、レイドはある一軒家に止まる。
レイド「ふう…。ここが俺の住む家だよ。」
そこは村の入口からすぐ左に建っていて、他のポケモンが住む家とは何ら変わらない一軒家だった。ここがレイドの住む家みたいだね。そしてレイドは扉を開けた。
レイド「ただいま、父さん。」
「おっ、お帰り、レイド。今日は随分と遅かったじゃないか。どこか寄り道でもしていたのか?」
レイド「あ…うん、ちょっとね…。途中の帰り道で倒れていたポケモンがいたから…。」
扉を開けると、その中にはレイドと親しげに話すポケモンがいた。それに気が付いたのか扉の前にやってきた。種族はルカリオといったところかな?
レイドの父さんはそこまで驚いた様子ではなかったみたい。
「どおりで見かけない子がいると思ったら…。その子がそうか。」
レイド「うん、気づいてたんだね、父さん…。紹介するよ。彼女はネールっていうんだ。」
ネール「あっ、ネール・アルティナです。よろしくお願いします…。」
「ははっ、そんなに緊張しなくていいよ。俺は
ソウル・アトスだ。レイドにいろいろと助けられたようだな。こちらこそよろしく。」
彼―――レイドの父親のソウルさんは穏やかな表情で自己紹介してくれた。
ソウル「さて、立ち話もなんだ。ネールには大したもてなしはできないが上がってくれていいぞ。」
ネール「あっ、はい、お邪魔します。」
そうして、私はレイドの家へと入っていった。
レイド「さて、できたよ!今日の料理!」
家に入るとレイドは早速採ってきたリンゴや木の実を使って様々な料理をしていた。私はその様子を見ていたけど、手際が良く随分と手慣れているのがわかった。家にはいい匂いがあたりに広がっていた。そして夕食の時間。テーブルには食欲をそそる木の実の料理が並んでいた。
ネール「わあっ…!!これ、レイドの料理なの!?」
ソウル「ああ、レイドの料理はかなり上手くてな…。村のみんなからもおいしいと評判なんだ。」
レイド「そうは言っても自炊なんだけどね…。ネールの口に合うかどうかはわからないけど…。」
ソウル「いいや、俺が保証するぞ。何せ味も一番だからな。」
レイド「褒めすぎだって、父さん…。」
ネール「ふふっ♪」
レイド「ちょ…笑わないでよネール…!」
と、レイドはあまりにも褒められるものだからついつい顔を赤らめてしまう。その様子を見て私はクスクスと笑い出してしまう。…何だか微笑ましいな…。
レイド「…それじゃあ…。」
三匹「いただきます!」
そうして私たちは手を合わせていただきますを言い、各々で食事をした。私にとってはこの世界に来て初めての食事だった。
その後、私はレイドにも言ったようにソウルさんに行く当てがなく、この家に泊めてほしいと頼んだ。ソウルさんは快く承諾し、「泊まるとは言わずに気の済むまでにここで暮らしていくといい。」とまで言ってくれた。ありがとう。レイド、ソウルさん。
その日の夜…。就寝時間…。
ネール「…ねえレイド、まだ起きてるかな。今日の晩ごはん、すごくおいしかったよ。それに初めての冒険でもいろいろと教えてくれて…。…こんな何者なのかもわからない私のために、何から何まで優しくしてもらって本当にありがとう…。レイド。」
私は精一杯の感謝を込めてレイドにそう言った。
レイド「別にいいよ。困っているポケモンは助けなきゃって思うのが普通だし、何より喜んでくれるのが好きなんだ。」
ネール「…ふふっ、ソウルさんも優しいし、いい家族だね…。」
レイド「…そうかな…。…まあ、そうかもしれないな…。」
レイドやソウルさんの優しさや、村ののどかな空気など、そんな会話を交わしあっていた。そして、眠気もだいぶ強くなってきた…。
ネール「これからもよろしくね。レイド。おやすみなさい…。」
レイド「うん、こちらこそよろしくね。ネール。おやすみなさい…。」
私たちはお互いに挨拶を交わしあった…。
[side レイド]
レイド「…ん…?…あれ…?俺は…一体…。」
目を覚ますと、俺は見知らぬ空間にいた。そこは至るところに星のような光が広がり、夜空というよりは紫色のした空間が広がっていた。そして俺は、体が浮遊しているような感覚を覚える。
レイド「え…?ここ、どこだ…?それに体が浮いてる…?」
確か俺は眠っていたはず…。それがなぜこんな空間が広がっている場所に浮いているのか…。俺がそう考えているとひとつの考えに行きついた。
レイド「…もしかして、夢の中、なのか…?」
そう考えるのが自然だった。すると…。
『………た…。…あな…た…。』
レイド「…えっ!?」
突然、途切れ途切れに声が頭の中に響いてきた!
『…あな、た…あなた…。』
その声は徐々に正確に聞こえるようになってきた。その声は静かなようでどこか威厳のある女性のような声だった。
『…今、声を聞いているリオルのあなた…。あなたのその心を見込んでお願いがあります…。よく聞いてください…。』
声の主は何かを俺に訴えようとしているようだった。声はすれども姿は見えず…声の主がどこからなのかわからなかった。シルエットすらも見えず、ただ頭の中に声が響くだけ。
『…今、この世界は大いなる危機によって世界から光が消えようとしています…。そこであなたを見込み、世界を守るための力、新たな命をあなたに託します…。』
レイド「え…?大いなる危機…?新たな命…?それに、世界を守るための力…?」
俺には何が何だかわからなかった。
世界から光が消えるとはどういうことなのか…。
『…あなたには…この力を…世界を…守るために扱える…素養…を持って…いるのです…。』
すると、また徐々に声がかすれてくるようになってきた。
レイド「えっ…!?何だよ…!?待てよ!?もう少し話を…!!」
『時間が…ありません…また…あな…たに…接触を…。』
そして、声は完全に聞こえなくなった。
レイド「ぐっ…ダメだ…意識…が…。」
そして、俺は目の前が徐々に暗転していった…。