第07話 初めての仕事
〜ギルド地下一階〜
カズヤとフィルミィは、地下一階にある二つの掲示板の内の一つの前に連れて来られた。
「さて、お前達は初心者だからね。
まずはこの仕事をやってもらうよ♪」
「この掲示板、いっぱい紙が貼ってあるけど……」
「ここには各地で困っているポケモン達の依頼が集まってるんだ。」
「へぇ〜。」
ギルドには世界中から依頼が集められる。
依頼は、まず本部と呼ばれる場所に届き、そこから依頼の場所が近いギルドへと送られる。
直接依頼する、と言った例もあるが。
「最近悪いポケモン達が増えているのは知っているよな?」
(知らなかった……)
知らなかったカズヤは放っておくとしよう。
っていうか記憶喪失なんだから知る訳が無い。
「うん。
なんでも時が狂い始めた影響で、悪いポケモン達も増えてるんでしょ?」
「時が狂い始めてるってどういう事?」
「そんな事も知らんのか?でも今説明すると長くなりそうだな・・・」
「えと、じゃあ、私が後で教えておきます。」
フィルミィはそう言う。
「そうか?じゃあ頼んだ。
まあとにかくその影響で悪いポケモン達が増えている。
最近各地に拡がっている不思議のダンジョンもその影響だと考えられているぞ。」
「(フィルミィが言ってたな……あの海岸の洞窟みたいな所か・・・)」
「ちなみに依頼の場所は全て不思議のダンジョンだ。」
ギルドには、不思議のダンジョン以外の依頼は届かない。
何故なら、普通の場所は、警察、保安庁などが何とかしてくれるからだ。
「うん。」
「分かった。」
「さて……ではどの依頼をやってもらおうかな♪」
ペリクは掲示板から依頼を探し始めた。
「………」
(どんなのだろうな〜!未知の秘境の探検とかかな〜!それとも…)
フィルミィは、探検隊初の仕事という事で、かなりわくわくしていた。
「おっ♪」
「見つかったの?」
「ああ♪これなんかがいいだろ。
ほら、見てみろ。」
ペリクは、ウキウキとしているフィルミィに、依頼書を手渡した。
「どれどれ?」
そこに書いてあった内容とは……
『初めまして。
私バネブーのブンタと申します。
ある日悪者に私の大事な真珠が盗まれたんです!真珠は私にとって命。
頭の上に真珠が無いと私落ち着かなくてもう何も出来ません!そんな時!私の真珠が見つかったとの情報が!どうやら岩場に捨てられていたらしいんですが………その岩場はとても危険なとこらしく………私怖くてそんな所行けませーーーーーーん!!ですのでお願い。
誰か岩場に行って真珠を取って来てくれないでしょうか?探検隊の皆様、お願いします!
ブンタより』
「………あれ?これって……………ただ落とし物を拾ってくるだけ!?」
フィルミィは驚きの声を上げる。
「そ、そうだね。」
フィルミィがめずらしく大声を挙げてるのを見て、少々驚きながらそう言う。
「何か想像してたのと違うよ〜!」
「おだまり!!」
「きゃっ!!」
ペリクに怒鳴られて、短く悲鳴を上げるフィルミィ。
「いいかい!?新入りは下積みが大切なんだよ!他の皆だってそうして来たんだよ!!」
「あぅ……」
フィルミィは少し、シュンとなってしまう。
「さあ!分かったら頑張って仕事に行って来るんだよ♪」
「は、はい……」
「はーい。」
ペリクのお説教を受けた二匹(何故かカズヤも)は、渋々(フィルミィだけ)湿った岩場に向かった。
こうして二匹の初めての仕事が始まった。
〜湿った岩場入り口〜
「ここが入り口かあ。依頼書に、真珠はかなり奥の方にあるって書いてあったけど……」
「でもペリクが言うには、この岩場自体狭いって言ってたからなあ………かなり奥と言ってもそんなに時間は掛からないんじゃないかな?」
「そっか、……ふぅ……」
フィルミィは溜め息をつく。
「どうしたの?」
「えっ?いや、初めて入る場所だからやっぱり緊張しちゃってさ……」
フィルミィはどうにも弱気な部分がある。
そのせいか緊張しているのだ。
「………大丈夫!僕が守るよ!」
カズヤはフィルミィを元気付ける為に、ニッコリと笑って見せる。
「////………うん…!頼りにしてるね…!」
と、顔を赤らめながらフィルミィも返す。
「じゃあ、とりあえず行こうか!」
「うん!」
〜湿った岩場内部〜
「じめじめしてるな〜…」
当たり前である。
「敵とか出てこなかったらいいんだけどな……」
「うーん……それはどうかな……」
二匹がそんな話をしながら進んでいると……
「……ん?」
カズヤがふと見た方向には、体当たりを仕掛けてきているアノプスがいた。
アノプスが後方から体当たりを仕掛けていて、狙いは後ろを歩いていたフィルミィだ。
しかしそれにいち早く気付いたカズヤは、
「…!そうはさせるか!!」
カズヤはジャンプして飛び上がり、そこからひのこを吹いた。
「えっ?」
フィルミィは、カズヤの行動に疑問を持ち、カズヤがひのこを吹いた方を見てみると、アノプスがプスプスと焦げて……寒っ……やっぱ今の無しで。
………アノプスが、焼け焦げた状態で倒れていた。
「あ、ありがとう!全然気が付かなかったよ……」
「お礼なんていいよ。
それより先に行こう?」
「うん!(本当に守ってくれた……!)
再び赤面するフィルミィ。
こうして再び先に進み始めたが、そこからは特に苦戦する闘いも無く、いい調子で進んでいた。
そして………
〜湿った岩場奥地〜
「あっ!もしかしてあれかな?」
目に入った丸くキラキラした物に近寄ってみると、そこには紛れもなく真珠があった。
「これだな、間違い無い。」
「よーしっ!早く持って帰ろっ!」
「そうだね。」
こうして二匹は真珠を持ち、ギルドへと帰還する。
最初は依頼内容に不服そうだったフィルミィも、なんだかんだ言って初めての仕事完遂に、満面の笑みを見せるのだった……
〜ギルド地下一階〜
「あ、ありがとうございます!私この頭の上の真珠が無かったせいで……ここ最近落ち着かなくて……そこらじゅうピョンピョン跳ねまくり!」
(若干迷惑だな……それ……)
確かに迷惑だ。
「おかげでもうアザだらけでしたよ……」
(…?もしかしてこのポケモンはアホなのかな?)
と、カズヤは心の中で失礼な事を考えていた。
「でもそんな心配も今日から無くなります。
本当にありがとうございました!これはお礼です!」
そう言って、ブンタがカズヤに手渡したのはなんと!2000ポケだった!(この世界では結構高額。)
「に、2000ポケ!?こんな大金いいの!?」
フィルミィはこの大金を目にして、相当な驚きを見せる。
「どうぞどうぞ。真珠に比べたら安いもんですよ。
では!」
ブンタは、満足気な表情をしながら去って行った。
「カズヤ!すごいよ!?2000ポケだって!!」
「そ、そうだね!(正直どれぐらい価値があるか分かんないんだけど……)」
カズヤにとっては、ポケとか言われても何の事やら、と言った感じである。
まあ当然だ。
そんな単位は知らないからだ。
「お前達、よくやったな♪」
「ありがとう!ペリク!!」
「でもお金は預かっておこう。」
そう言ってペリクはさっきカズヤに渡された2000ポケを没収した。
「えっ!?」
「どういう事!?」
どのぐらい価値があるかは分からないが、報酬のお金を没収されたのは分かったので、カズヤも疑問の声を上げた。
「ほとんどは親方様の取り分♪お前達は………このぐらいかな♪」
ペリクはカズヤに200ポケ渡した。
「「ええええっ!?」」
「10分の1!?」
「そんなあ!」
二匹とも驚愕の声を上げる。
「これが、ギルドのしきたりなんだよ、我慢しな♪」
「うぅ…」
「むぅ…」
二匹は納得出来ない気持ちになりながらも、地下二階へと降りるのだった。
〜ギルド地下二階〜
「……なんなんだ……」
「はぁ……頑張ったのにな……」
カズヤは文句を、フィルミィは独り言を呟く。
と、その時。
『ちりんちりーん♪』
ギルド内に鈴の音が鳴り響く。
「みなさーん!お待たせ致しましたー♪」
聞こえてきたのはリン……あのチリーンの声。
「「「「「!!」」」」」
「「?」」
皆は表情が一変するが、カズヤとフィルミィはそんな様子をよく分からなさそうな表情で見る。
「食事の用意が出来ました♪晩御飯の時間ですよー♪」
「「「「「わあーーーーっ!!」」」」」
皆が待ってましたと言わんばかりに、一斉に食堂に向かう。
「うわあ、凄い盛り上がりだな……」
「何してるの?早く行こうよ♪」
カズヤは、あまりのテンションの高さに、若干引き気味になったが、フィルミィに関しては、晩御飯と聞くと、他の者と同じ様に表情を一変させ、かなりハイテンションになる。
「う、うん。」
そんな一面に若干たじろぎながらも、フィルミィと一緒に食堂に向かうカズヤであった……
〜食堂〜
「わあぁっ!!美味しそう!!」
「……」
カズヤは微妙な表情をしていた。
何故なら、食事と言ってもカズヤが想像していた様な人間の食事では無く、ポケモンらしい、果物やグミが沢山お皿に乗っているだけだった。
「それじゃあ!みんなで!!」
「「「「「頂きまーす!!」」」」」
「………頂きます。」
カズヤは、かなりテンションが下がりながらも、そう言った。
そして食事が終わり……
「「「「「ごちそうさまー!」」」」」
「……ご馳走様。」
カズヤのテンションは相変わらず低かった……
「美味しかったあ!!」
「(……フィルミィ、凄い食べっぷりだったな…)」
満足そうにしているフィルミィを見ながら、カズヤは、『まあこの世界じゃ普通なのかな』と思ったそうである……
「お腹がふくれたら眠くなってきたぜ……」
「じゃあそろそろ皆寝るか。」
上から、ゴンド、ヘイルの順にそう言う。
「「「「「お休みー!」」」」」
そんなこんなで、あっという間に夜を迎えた。
〜ウィングズの部屋〜
この部屋では既に二匹共横になっていた。
(………緊張はしなくなったかな……)
カズヤは、早くもこの状況に慣れていた。
仮にも(仮では無いが)、一緒に一日を過ごした相手なので、適応性が高い者なら慣れるだろう。
「……ねぇ、カズヤ……」
「あ、起きてたんだ…」
カズヤはやっぱり、と言わんばかりの感じでフィルミィに返す。
「うん……今日は色々あって忙しかったね。」
「そうだね。
でもこれが日常になるんだと思うけど。」
「えへへ……ちょっと大変そうだな……」
そう言いながら苦笑いするフィルミィに、
「大丈夫……なんとかなるよ……それに、自分で選んだ道でしょ?頑張らないと…!」
カズヤはそう言い、微笑む。
「////……!う、うん。ありがとう。(やっぱり、カズヤは優しいな……)」
「……?フィルミィ?どうしたの?」
「え?あ、いや、何でもないの、うん…大丈夫……」
「…?そっか。(何が大丈夫なんだ…?)」
「(…やっぱり私、カズヤの事が……)」
フィルミィは、自分の心の中で、カズヤに抱いている想いを再確認する。(どんな想いかは言わなくても分かるよね。)
「カズヤ、私もう寝るよ。」
「そっか、お休み、フィルミィ。」
「うんお休みなさい……」
(…今日は大変だったけど……明日も頑張ろう……)
こうして二匹は眠りに付き、明日の一日に備えるのであった……