第11話 VSエゾロ 信頼の力
「君の事、『信じてる』。」
「……!」
そう言い、走り出すカズヤの後ろ姿を、ただただフィルミィは見つめていた。
「(……『信じてる』……私の事を…?)」
フィルミィは、そこで独り考え始めた。
その言葉の意味を……
「喰らえ!『ひのこ』!!」
カズヤは、走りながら小さい火の塊を出し、エゾロに向かって発射するが……
「甘い!」
エゾロは『ねんりき』を使い、『ひのこ』を弾き飛ばしてしまった。
「(弾き飛ばした!?そう言えばこいつはエスパータイプだっけ…)」
「そんな攻撃、俺には通用せん!」
そう言いながら、エゾロは両手を構え、カズヤに向かって『サイケこうせん』を放つ。
「っ!」
攻撃をかわすと、一気に近づいて、『ひっかく』攻撃をしようとするが……
「無駄だ!!」
またも『ねんりき』で止められ、今度はカズヤ自身が吹き飛ばされてしまい、フィルミィのいるすぐ横の壁に激突した。
「ぐっ!」
「カズヤ!」
フィルミィはそんなカズヤを見て、思わず名を叫ぶが、足は未だ震えて動かない。
「くっ……大丈夫だよ、フィルミィ……」
そう言い、カズヤは立ち上がる。
「(カズヤ……今の激突で大丈夫な訳無いよ…!何で……無理してるのは、カズヤの方じゃない…!)」
助けたいのに、足は動かない。
そんな自分に苛立ちを覚えるフィルミィ。
「どうした?これで終わりか?」
エゾロは余裕そうにそう言う。
「まだまだ…!こんなもんで僕はやられないよ…!」
そう言い、カズヤはエゾロに不敵な笑みを見せる。
「(フィルミィ…ごめんね……いきなり『信じてる』、なんて言われても困るよね……でも……)」
カズヤは、エゾロに向かって走っていく。
「諦めの悪い奴め……これでどうだ!」
エゾロは、シャドーボールをカズヤに向かって放つ。
「くっ!」
カズヤも『ひのこ』を飛ばして対抗するが、簡単に『シャドーボール』に押し負けてしまい、それはカズヤの左肩に直撃する。
「ぐふっ…!」
爆発で、カズヤは空中に打ち上げられる。
「これで終わりだ!」
エゾロは、空中で身動きが出来ないカズヤに、『サイケこうせん』を放つ、が、
「まだ終わりじゃ……無い!」
カズヤは、丁度近くにあった大きな岩を蹴り、地面へと着地、『サイケこうせん』は空を切り、何にも当たる事無く消えていく。
「ちっ!なんつーかわし方しやがるんだ…あのヒトカゲ…」
カズヤは、被弾した左肩を右手で抑えつつ、エゾロを見据える。
「はぁ…はぁ…」
「(カズヤ……どうして……どうして、カズヤがこんなに頑張ってるのに…私は………)」
フィルミィの震えは、最早恐怖の感情だけでは無かった。
悔しさだ。
「……中々頑張るなあ…?だが、これで終わりだあ!」
エゾロは、カズヤに向かってもう一度、『サイケこうせん』を放つ。
「(くっ……体が、動かない……)」
カズヤに、もう咄嗟にかわせるだけの体力は残っていなかった。
「僕は……信じてる……」
「……!」
「………やっぱり、ね…」
体は咄嗟に動いた、しかしそれは、カズヤのでは無い。
「……させない…!」
爆発で起こった砂煙が晴れ、そこにいたのは……フィルミィだった。
「な…!?」
エゾロは、カズヤの姿を確認する。
カズヤは、フィルミィの後ろにいる。
未だに立っているのだ。
「お前……今のをどうやって…!?」
「えへへ……なんか出ちゃった……」
そう言い、フィルミィは目の前に緑色のバリアーを展開して見せる。
「『まもる』か…!?」
エゾロは、突然のフィルミィの介入に驚きを隠せない。
「ごめんね、カズヤ……今まで一匹で戦わせちゃって……」
「いいよ、別に……フィルミィなら、頑張って乗り越えてくれるって、信じたからさ。」
「…ありがとう、カズヤ……」
「(君みたいに……誰かの為に頑張れるポケモンならね……)」
カズヤとフィルミィは、顔を見合わせた後、エゾロに向かう。
「フィルミィ…!あいつの周りを『でんこうせっか』で走り回りながら攻撃する素振りを見せて…」
「えっ?攻撃する素振り?」
「今度は…僕を信じてよ。」
「……!…分かった。
カズヤを信じる!!」
フィルミィは高速でエゾロに向かって真っ直ぐ走り始めた。
「無駄だ!『ねんりき』!!」
しかしフィルミィは突然曲がり、エゾロの周りを回り始めた。
「うおっ!貴様っ!くそっ!速くて上手く焦点が…!」
「(やっぱりあの技も万能じゃあ無いんだな……何かを操るには焦点を合わせなければならない。
でも、フィルミィの動き方だと焦点を捉えられないんだ……)」
「……!」
フィルミィは攻撃する素振りを見せる。
「そこか!!」
「残念…!そっちじゃ無い!」
「なっ!?」
カズヤはエゾロの後ろから飛び出し、爪でエゾロの顔面を引っ掻く。
「ぐおおっ!!」
『ひっかく』でも、やはり顔面はかなり痛い。
「喰らえ!!」
『ズバババババ!!』
「ぐああああっ!?」
カズヤはエゾロに引っ付き、顔をこれでもかというぐらいに引っ掻き続ける。
「私も……!」
フィルミィは『てだすけ』を発動し、カズヤに力を贈る。
「ぐおおおっ!!」
「フィルミィ!」
「うん!」
最後に、カズヤはエゾロを突き飛ばし、渾身の蹴り、『いわくだき』を放つ。
更に、その反対からフィルミィが『たいあたり』で突撃。
見事に二つの技は同時にヒットし……
『ドゴっ!!』
「うおおおっ!!……ぐふっ……」
エゾロは、とうとう力尽き倒れた。
「……!やった!!」
フィルミィは、ついにお尋ね者を倒せたと、喜びの声を挙げる。
「…うっ…ぐっ…」
しかし、カズヤはその場に倒れ込む。
「カ、カズヤ!?」
フィルミィは、カズヤの元へ駆け寄る。
「は、はは、やったね、フィルミィ…お尋ね者、倒せたよ……」
「もう!無理し過ぎだよ!カズヤ!!」
「ご、ごめんごめん……」
そう言いつつ、カズヤはふらふらと立ち上がる。
「……でも……ありがとう……」
「え?」
フィルミィからのお礼の言葉に、カズヤはきょとんとした表情を見せる。
「私の為に、無理してくれて……私なんかの事、信じてくれて……嬉しかった……!」
そう言って、フィルミィは満面の笑みを見せる。
「……その笑顔が見れたから、まあ頑張った甲斐はあったかな……」
カズヤもフィルミィに笑みを見せる。
「リリ!」
二匹は、怯えながら戦いを見ていたリリの下に駆け寄る。
「助けに来たよ。」
「怪我とかしてない?」
と、カズヤ、フィルミィの順に言う。
「は、はい……大丈夫です。そ、それより……」
「僕達なら平気だよ。」
「さ、お兄ちゃんが待ってるよ!帰ろうか!!」
フィルミィは満面の笑みで言う。
「………うん!!」
リリも釣られて笑顔になり、そう答えた………