第二章 『修行 〜挫けそうになっても側にいる〜』
第11話 VSエゾロ 信頼の力
「君の事、『信じてる』。」

「……!」

そう言い、走り出すカズヤの後ろ姿を、ただただフィルミィは見つめていた。

「(……『信じてる』……私の事を…?)」

フィルミィは、そこで独り考え始めた。
その言葉の意味を……










「喰らえ!『ひのこ』!!」

カズヤは、走りながら小さい火の塊を出し、エゾロに向かって発射するが……

「甘い!」

エゾロは『ねんりき』を使い、『ひのこ』を弾き飛ばしてしまった。

「(弾き飛ばした!?そう言えばこいつはエスパータイプだっけ…)」

「そんな攻撃、俺には通用せん!」

そう言いながら、エゾロは両手を構え、カズヤに向かって『サイケこうせん』を放つ。

「っ!」

攻撃をかわすと、一気に近づいて、『ひっかく』攻撃をしようとするが……

「無駄だ!!」

またも『ねんりき』で止められ、今度はカズヤ自身が吹き飛ばされてしまい、フィルミィのいるすぐ横の壁に激突した。

「ぐっ!」

「カズヤ!」

フィルミィはそんなカズヤを見て、思わず名を叫ぶが、足は未だ震えて動かない。

「くっ……大丈夫だよ、フィルミィ……」

そう言い、カズヤは立ち上がる。

「(カズヤ……今の激突で大丈夫な訳無いよ…!何で……無理してるのは、カズヤの方じゃない…!)」

助けたいのに、足は動かない。
そんな自分に苛立ちを覚えるフィルミィ。

「どうした?これで終わりか?」

エゾロは余裕そうにそう言う。

「まだまだ…!こんなもんで僕はやられないよ…!」

そう言い、カズヤはエゾロに不敵な笑みを見せる。

「(フィルミィ…ごめんね……いきなり『信じてる』、なんて言われても困るよね……でも……)」

カズヤは、エゾロに向かって走っていく。

「諦めの悪い奴め……これでどうだ!」

エゾロは、シャドーボールをカズヤに向かって放つ。

「くっ!」

カズヤも『ひのこ』を飛ばして対抗するが、簡単に『シャドーボール』に押し負けてしまい、それはカズヤの左肩に直撃する。

「ぐふっ…!」

爆発で、カズヤは空中に打ち上げられる。

「これで終わりだ!」

エゾロは、空中で身動きが出来ないカズヤに、『サイケこうせん』を放つ、が、

「まだ終わりじゃ……無い!」

カズヤは、丁度近くにあった大きな岩を蹴り、地面へと着地、『サイケこうせん』は空を切り、何にも当たる事無く消えていく。

「ちっ!なんつーかわし方しやがるんだ…あのヒトカゲ…」

カズヤは、被弾した左肩を右手で抑えつつ、エゾロを見据える。

「はぁ…はぁ…」

「(カズヤ……どうして……どうして、カズヤがこんなに頑張ってるのに…私は………)」

フィルミィの震えは、最早恐怖の感情だけでは無かった。
悔しさだ。

「……中々頑張るなあ…?だが、これで終わりだあ!」

エゾロは、カズヤに向かってもう一度、『サイケこうせん』を放つ。

「(くっ……体が、動かない……)」

カズヤに、もう咄嗟にかわせるだけの体力は残っていなかった。

「僕は……信じてる……」

「……!」











「………やっぱり、ね…」

体は咄嗟に動いた、しかしそれは、カズヤのでは無い。

「……させない…!」

爆発で起こった砂煙が晴れ、そこにいたのは……フィルミィだった。

「な…!?」

エゾロは、カズヤの姿を確認する。
カズヤは、フィルミィの後ろにいる。
未だに立っているのだ。

「お前……今のをどうやって…!?」

「えへへ……なんか出ちゃった……」

そう言い、フィルミィは目の前に緑色のバリアーを展開して見せる。

「『まもる』か…!?」

エゾロは、突然のフィルミィの介入に驚きを隠せない。

「ごめんね、カズヤ……今まで一匹で戦わせちゃって……」

「いいよ、別に……フィルミィなら、頑張って乗り越えてくれるって、信じたからさ。」

「…ありがとう、カズヤ……」

「(君みたいに……誰かの為に頑張れるポケモンならね……)」

カズヤとフィルミィは、顔を見合わせた後、エゾロに向かう。

「フィルミィ…!あいつの周りを『でんこうせっか』で走り回りながら攻撃する素振りを見せて…」

「えっ?攻撃する素振り?」

「今度は…僕を信じてよ。」

「……!…分かった。
カズヤを信じる!!」

フィルミィは高速でエゾロに向かって真っ直ぐ走り始めた。

「無駄だ!『ねんりき』!!」

しかしフィルミィは突然曲がり、エゾロの周りを回り始めた。

「うおっ!貴様っ!くそっ!速くて上手く焦点が…!」

「(やっぱりあの技も万能じゃあ無いんだな……何かを操るには焦点を合わせなければならない。
でも、フィルミィの動き方だと焦点を捉えられないんだ……)」

「……!」

フィルミィは攻撃する素振りを見せる。

「そこか!!」

「残念…!そっちじゃ無い!」

「なっ!?」

カズヤはエゾロの後ろから飛び出し、爪でエゾロの顔面を引っ掻く。

「ぐおおっ!!」

『ひっかく』でも、やはり顔面はかなり痛い。

「喰らえ!!」

『ズバババババ!!』

「ぐああああっ!?」

カズヤはエゾロに引っ付き、顔をこれでもかというぐらいに引っ掻き続ける。

「私も……!」

フィルミィは『てだすけ』を発動し、カズヤに力を贈る。

「ぐおおおっ!!」

「フィルミィ!」

「うん!」

最後に、カズヤはエゾロを突き飛ばし、渾身の蹴り、『いわくだき』を放つ。
更に、その反対からフィルミィが『たいあたり』で突撃。
見事に二つの技は同時にヒットし……

『ドゴっ!!』

「うおおおっ!!……ぐふっ……」

エゾロは、とうとう力尽き倒れた。










「……!やった!!」

フィルミィは、ついにお尋ね者を倒せたと、喜びの声を挙げる。

「…うっ…ぐっ…」

しかし、カズヤはその場に倒れ込む。

「カ、カズヤ!?」

フィルミィは、カズヤの元へ駆け寄る。

「は、はは、やったね、フィルミィ…お尋ね者、倒せたよ……」

「もう!無理し過ぎだよ!カズヤ!!」

「ご、ごめんごめん……」
そう言いつつ、カズヤはふらふらと立ち上がる。

「……でも……ありがとう……」

「え?」

フィルミィからのお礼の言葉に、カズヤはきょとんとした表情を見せる。

「私の為に、無理してくれて……私なんかの事、信じてくれて……嬉しかった……!」

そう言って、フィルミィは満面の笑みを見せる。

「……その笑顔が見れたから、まあ頑張った甲斐はあったかな……」

カズヤもフィルミィに笑みを見せる。

「リリ!」

二匹は、怯えながら戦いを見ていたリリの下に駆け寄る。

「助けに来たよ。」

「怪我とかしてない?」

と、カズヤ、フィルミィの順に言う。

「は、はい……大丈夫です。そ、それより……」

「僕達なら平気だよ。」

「さ、お兄ちゃんが待ってるよ!帰ろうか!!」

フィルミィは満面の笑みで言う。

「………うん!!」

リリも釣られて笑顔になり、そう答えた………


炎翼龍 ( 2013/03/26(火) 22:49 )