第12話 時の歯車
〜トゲトゲ山前〜
「ワタシハ、ジバコイルノ『イサイル』トイイ、コノチイキノ ホアンカンデス。」
「「………」」
二匹…カズヤとフィルミィは固まっていた。
リリを助け、リリを連れて山を降りてきたカズヤ達の前に現れた、イサイルと名乗るジバコイルの保安官、らしいのだが……
「……どうしよう、フィルミィ……言葉が凄く聞き取り辛いんだけど……」
「うん…私もだよ……」
イサイル保安官の言葉の聞き取り辛さに、二匹は完全に困っていた。
そんな二匹を見て、イサイル保安官は……
「……アノー、モシカシテキキトリヅライデスカ?」
「え、あ、いやぁ、まあ……」
多少言い辛そうに、そう答えるカズヤ。
すると…
「分カリマシタ。
デハコレデドウデショウカ?」
「(…?変わった、ような……気が……しない…でも無い…)」
「(う、う〜ん…?違う…のかな……?)」
カズヤとフィルミィは、何とも言い難い難しい表情になる。
「スミマセン、昔カラコノ声デ……デモ最近ハ漢字ヲ使用出来ルヨウニナリマシタ。」
「は、はあ…」
「そ、そうなんだ?」
二匹とも、正直困ったような表情をしている。
「エー、コノ度ハ、オ尋ネ者逮捕ニゴ協力イタダキ、アリガトウゴザイマシタ!!賞金ハ、ギルドニ送ッテオキマス。デハ。」
と、凄く聞きにくい声で言うと、イサイルはエゾロに目を向け、
「サア、クルンダ。」
「トホホ…」
そう言い、エゾロを連行していった……。
こうしてエゾロはイサイルに連れていかれ、無事お尋ね者逮捕は完了した。
「リリ!」
話が終わるのを待っていたリルダが、リリに駆け寄る。
「お兄ちゃん!!」
それに答えるように、リリもリルダへ飛び込んで行く。
「リリ!良かった……」
「お兄ちゃ〜〜〜〜〜ん!!怖かったよ〜〜〜〜!!」
今まで溜まっていた涙が、リリの目から溢れ出す。
「リリ、大丈夫か?怪我は無いのか?」
「うん…大丈夫。」
鼻をズビッズビッ、とさせながら、そう答えるリリ。
「良かった・・・本当に良かった・・・!」
そう言い、リルダはリリを抱き締める。
そんな二匹の様子を、カズヤとフィルミィは微笑ましそうに眺めていた。
「…はは…兄弟水入らずって奴かな…?」
「うん!…えへへ、なんだか自分の事みたいに嬉しい…!」
ある程度終わり、リルダはカズヤ達の方へと向き直る。
「これもカズヤさんとフィルミィさんのおかげです!このご恩は忘れません!ありがとうございました!…ほら、リリも。」
兄にそう促され、リリもカズヤ達の方へと向き直る。
「助けてくれてありがとうございます!!」
「本当に、本当にありがとうございました!」
二匹揃って、小さな体で精一杯のお辞儀をする。
「お礼なんていいよ、と言いたいところだけど今回は素直に受け取っておこうかな。ね、フィルミィ。」
「うん!あ、でも…君達を見てたら私達も嬉しくなっちゃったし…お互い様かも?」
「確かにそうかも。」
そう笑顔で二匹は言う。
「カ、カズヤさん…!フィルミィさん…!ありがとう…ございます!!」
カズヤとフィルミィは、最後に二匹に満面の笑みを送り、リルダとリリもそれに同じく満面の笑みで返し、二匹楽しそうに帰っていった…
「……ねえ、カズヤ。」
「ん?」
二匹の姿が見えなくなった頃、フィルミィはカズヤに声を掛ける。
「……ごめんね…?」
「…へ?」
謝罪されるとは思っていなかったらしく、間の抜けた声を出してしまうカズヤ。
「……私、カズヤが見た映像の話、…信じなかったよね……」
そう、フィルミィは、トレジャータウンでカズヤがエゾロとぶつかった時に見たと言う映像を、信じなかった。
しかし、実際にはその映像通りの事が起こってしまったのだ。
と、言っても、フィルミィにとって重要なのはそこでは無く、あの時カズヤを信じられなかった事だった。
「……ああ、その事か。別に気にしてないよ?」
「で、でも……」
『別に気にしてない』、そう言うカズヤだが、フィルミィとしては信じられなかったショックが大きかったのか、中々食い下がらない。
「別に良いってば。それに、フィルミィは僕の事信じてくれたしね。」
「えっ?」
………
「今度は…僕を信じてよ。」
「……!…分かった。
カズヤを信じる!!」
………
「エゾロとの戦いの時、僕は君を信じて、君は僕を信じてくれた。それで充分だよ。」
そう言って、笑って見せるカズヤに対し、フィルミィは顔を赤らめていた。
「……うん。」
フィルミィは、照れた顔を隠すように頷く。
「さ、帰ろう。」
「そうだね。」
こうして二匹はギルドへと帰っていった。が、その道中、フィルミィが嬉しそうに尻尾をぱたぱた振っていたのには、カズヤも、フィルミィでさえも、気付いてはいなかった……
〜ギルド地下一階〜
「イサイル保安官からお尋ね者の賞金を頂いたぞ♪お前達よくやったな♪これは今回の仕事の報酬だ、取っておいてくれ♪」
カズヤ達はお尋ね者に掛けられた賞金、3000ポケをペリクから貰った…と思ったが………その内2700ポケはギルドの取り分なので……その分は差っ引かれ……その結果カズヤ達は……残り300ポケしか貰えなかった!
「やった!!300ポケ…って少ないよ!!」
まさかのノリツッコミである。
「こ、これしか貰えないの!?」
流石のフィルミィも驚きの声を挙げる。
「……当たり前だ。」
先程までのご機嫌な表情はどこへやら、真顔でそう言い切るペリク、と思ったら、再びご機嫌な表情へと戻り、
「これが修行という物だ。明日からまた頑張るんだよ。ハハハハハッ♪」
そう言いペリクは去っていった……
「………」
「あぅ……」
黙り込むカズヤに、息を漏らすような声を出すフィルミィ。
「…この分け前何とかならなかったのか…?」
「そうだよね……」
溜め息をつく二匹。
「……ま、いっか。リリを助ける事が出来たしね!」
「…うん、そうだね!」
なんだかんだで結果オーライ。
二匹は、向き合って笑顔になった。と、その時、
『ぐうぅ』
「あっ……////」
フィルミィのお腹が鳴る。
『ぐうぅ』
続けてカズヤのお腹も鳴る。
「あ、僕も。」
「え、えへへ…」
少し恥ずかしそうにするフィルミィ。
「そういえばお腹空いたな。リリ達を助けるのに必死で気付かなかったけど。」
「そ、そうだね。」
「ご飯食べに行こうか!」
「うんっ!」
意気揚々と食堂に向かうカズヤとフィルミィ。
幸いにも、夕御飯の時間はすぐだった。
いつもより頑張った二匹は、いつもより食べる量も多かったと言う……
〜ウィングズの部屋〜
『ゴロロロ…』
外は雷が鳴っていた。どうやら今夜は嵐のようだ。
『ピシャアアン!!』
「きゃあっ!!」
突然の轟音に、思わず跳び跳ねるフィルミィ。(技じゃないよ!)
「うわっ…これは酷い天気だな…」
「今夜は嵐みたい…」
「だね……」
「……そういえば!」
何かを思い出したのか、フィルミィはカズヤの方へと体を向ける。
「カズヤと会った日の前の晩も嵐だったんだ。」
「そうなんだ。」
「どうかな?この天気見て何か思い出せない?」
「(…………)」
カズヤはなんとなく思い出そうとしてみる。
「どう?」
「……いや……やっぱり駄目だ。思い出せないよ。」
やはり思い出せないようだ。
「そっかぁ…でもまあ、少しづつ思い出せればいいよね!」
「だね。」
そんな会話をしながら、二匹は少し眠くなってきた。
「今日はもう寝ようか。」
「…そうだね…」
そんな訳で、横になる二匹だった。
「(……しかしあの目眩は一体何だったんだろうか…未来が見えるなんて…そんな能力聞いた事無いよ…それとも、僕が知らないだけとか…?)」
と、カズヤが思考にふけっていると、
「……ねえ、カズヤ……まだ起きてる?」
案の定起きていたフィルミィが、カズヤに声を掛けてくる。
「あ、やっぱりフィルミィ起きてたんだ。」
「あはは……分かってたんだ。」
くすくすと笑いながら、そう言うフィルミィ。「予想はしてたよ。」とカズヤは返す。
「……私思うんだけど…カズヤが見たっていう映像は、カズヤ自身の事と深く関わってるんじゃ……」
「あの映像と…僕が…?」
「その映像の内容じゃ無いよ?映像が見えるっていう現象自体の事。」
「……」
「なんとなくなんだけど…でも未来が見えるヒトカゲなんて聞いた事無いから……人間が突然ポケモンになったっていうのも、私が知る限りは前例が無いし……」
「だからその二つが大きく関わっている……?」
「そう。」
可能性はあるだろう、そう思うカズヤ。只、いまの段階では、憶測に過ぎないのも事実だ。
「…私、人間だった時のカズヤの事は知らないけど……絶対いい人だったと思う……それにカズヤのおかげで悪いポケモンを捕まえる事も出来たし……」
「…はは…そうかな…?そうであってほしいとは思うけど……」
そんな事を言いつつ、内心そう言ってくれるフィルミィは、とても優しい子なんだと思っていた。
「悪いポケモン…か………そういえば、前ペリクが言ってたよね?悪いポケモンが増えたのは時が狂い始めた影響だとか……あれはどういう事なの?」
ここで、カズヤは以前ペリクが言っていた事を思いだし、フィルミィに質問を投げ掛ける。
「そういえばまだ説明してなかったよね。えっとね、世界各地で少しづつだけど時が狂い始めてるんだよ。何でかは分からないんだけど……皆が言うには…【時の歯車】が影響してるんじゃ無いかって。」
「時の…歯車…?」
何となく頭に引っ掛かった気がしたが、今はそれは置いておく事にした。
「そう、時の歯車は世界の隠された場所、例えば……森の中とか…湖や鍾乳洞…火山の中とか……そんなような場所にあるって言われてるんだ……そしてそこに時の歯車がある事で、それぞれの地域の時間が守られているって言われているの……」
「ふ〜ん……じゃあ、時の歯車を取っちゃったらどうなるの?」
「それは……私にも分からない……でも……時の歯車を取っちゃったら……多分その地域の時間が止まっちゃうんだと思う……だから皆絶対触らないようにしてるの。皆怖がって時の歯車だけは触ろうとはしない。どんなに悪いポケモンでも……」
そう言い、フィルミィはそこで説明を区切る。
「そっか……色々教えてくれてありがとう…。」
「フフ…役に立てたなら、嬉しいな。」
そう言い、寝る前だと言うのに、フィルミィは顔をニコニコさせる。
「さ、今日はもう寝よう……」
「うん………カズヤ。」
「ん?」
「カズヤの事、ずっと信じるね…!」
「……僕も、信じてるよ…フィルミィ……」
お互い信頼を確認し合ったところで、明日の為にも、二匹は眠りに着いた……
〜???〜
雨が降り注ぐその森の中を駆け抜けて行く、一匹のポケモン……こんな時間にここにポケモンが出てくる事は普通はあり得ない。
「………」
ひたすら、無言で走り抜けていくが、目的地に着いたのか、その足が止まる。
「………初めて見たが……これが……」
そのポケモンは鋭い眼孔で『それ』を見る。
「遂に見つけたぞ……時の歯車……まずは…一つ目。」