第一章 『始まり 〜貴方と一緒に〜』
第05話 ウィングズ結成






〜レイリンの部屋〜




「失礼します。」

「失礼しま〜す。」

「しっ、しつれび……か、噛んじゃった……。」

上からペリク、カズヤ、フィルミィの順に、そう言う。(一匹噛んでたのはスルーしておこう)
カズヤ達が入ってみると、正面に一匹のピンク色をしたポケモンが背を向けて立っていた。
どうやらこのポケモンが親方のようだ。

「親方様、こちらが今度新しく弟子入りを希望している者達です。」

「………………」

親方と思われしポケモンは、何も反応を示さない。

「親方様………、………親方様?」

ペリクが呼び掛けると、レイリンは突然振り返り、

「やあっ!!」

「「うわあっ!」」

子供みたいな大きな声で、挨拶してきた。
二匹はびっくりして尻餅をついたが、構わず話し続けるレイリン。

「ボクレイリン!ここのギルドの親方だよ?」

「(いきなり振り返ってボクレイリン!って……)」

カズヤは、落ち着く為に胸を撫で下ろす。
彼こそがこのギルドの親方、プクリンのレイリンだ。

「探検隊になりたいんだって?じゃっ、一緒にがんばろうね!」

「即決!?」

フィルミィの突っ込みが入るが、突っ込みも何のその、レイリンはどんどん話を進めていく。

「とりあえず探検隊のチーム名を登録しなくちゃ、キミたちのチームの名前をおしえてくれる?」

「あ…は、はい、えっと、ウィングズです。」

フィルミィはチーム名を教えた。

「ウィングズ!!うん!いい名前だね!!気に入ったよ!じゃあウィングズで登録するよ?」

「う、うん。」

カズヤも了承。

「大丈夫です……」

続けてフィルミィも了承。

「(さて、そろそろ来るか〜……)」

なんて事をペリクが思っていると……

「とうろく♪とうろく♪みんなとうろく……」

「(何だこの登録の仕方は…)」

カズヤが呆れる中、何故かレイリンは息を大きく吸い込む。

「……っ!たああああああああ!!!!!!」

レイリンは(何故か)ハイパーボイスを発動。

「どわああああ!?」

「耳がああ!!」

「ぬおおおっ!!」

上からカズヤ、フィルミィ、ペリクの順に叫ぶ。



「…………ふぅ、おめでとう!これでキミたちも今日から正式な探検隊だよ!記念にこれをあげるよ。」

そう言うとレイリンはフィルミィにポケモン探検隊キットを手渡した。
ポケモン探検隊キットとは、探検隊がダンジョンを冒険する時に必要な道具が入っている物だ。

「ふぁ、ふぁい?ありがとうごじゃいましゅぅ……」

フィルミィはハイパーボイスのせいてふらふらになったせいで、呂律が上手く回っていない。
しかし、なんとかポケモン探検隊キットを受け取ると、二匹は気を取り直し、ふたを開けてみる。

「えっと、このバッジは?」

「それは探検隊バッジ!探検隊の証だよ!それがあれば、要救助者をダンジョンの外に脱出させたり出来るし、探検隊ランクによってバッジの色が変わるからね。探検隊ランクもバッジを見れば一目で分かる。」

「この地図は…?」

フィルミィが聞く。

「それは不思議な地図!最初はいろんな場所が雲に覆われているけど、キミたちが一度いった場所が晴れてどんどん見える様になっていくんだ!」

「へぇ〜、見た目と違ってハイテクだな〜。」

「このバッグは何?」

今度はバッグに目をつける。

「それはトレジャーバッグ!ダンジョンで拾った道具を取っておけるんだ!そして、キミたちの活躍でそのバッグはどんどん大きくなっていくんだよ!すごいでしょ!……と、以上の三つだね。」

「へえ〜…!、ありがとうございます!!私達、これから頑張ります!!」

フィルミィは目を輝かせてそう言った。

「うん。でもまだ見習いだから頑張って修行してね!!」

「はいっ!!」

「はい。」

フィルミィはしっかりと、そして、カズヤも静かながらしっかりとした返事をした。

「カズヤ、一緒に頑張ろうね!!」

「うん。」

張り切るフィルミィに、優しい声でそう返すカズヤ。
これから、二匹の探検隊生活が始まるのだ……



そして……夜……









〜ウィングズの部屋〜


「ここがお前達の部屋だ♪」

と、ペリクに案内されてやって来たのは、二つね藁のベッドだけが置いてある、お世辞にも広いとは言えない部屋だった。

「あり?同室なの?」

と、カズヤがペリクに訪ねる。

「なーにわがまま言ってるんだ!個室になんてしたら部屋が足りなくなるよ!!」

「いや、そうじゃなくて……違う性別だから違う部屋の方がいいんじゃ…?」

と、カズヤにとっては当たり前の事を言うのだが……

「………はて?何を言っているのだ?人間じゃあるまいし……」

と、返されてしまった。
どうやらポケモンにとっては普通の事らしい。

「まあそんな事はどうでもいい。これからお前達には住み込みで働いてもらう。明日から忙しいぞ♪早起きしなきゃならんし規則も厳しいんだ。夜更かししないで今日はもう早めに寝るんだぞ♪じゃあな。」

こう言い残してペリクは去って行った。

「……行っちゃった……」

「なんだか忙しそうなポケモンだったね……」

「うん……」

……暫く沈黙状態になるが、先にフィルミィが口を開く。

「…ねえ……もしかして………私と同じ部屋じゃ……嫌……?」

フィルミィはそこが気になったのか、カズヤにそう聞いてみる。

「ええっ!?何でそうなるの!?」

「だってさっき……」

フィルミィはポケモン。
男女共同部屋で寝るのは、大して抵抗は無いのだ。
となると、もしかして嫌われているのか、と思ってしまう。(フィルミィが心配性なところもあるのだが)

「あれはそういう事じゃなくて、ほら、僕元々人間でしょ?人間は基本的には異性同士同じ部屋では寝ないんだよ。」

と、慌てて説明する。

「そっかあ……よかったぁ……」

そう言って、彼女は今の時代、珍しい程純粋な笑顔になる。

「それにしても………人間の時の一般常識は覚えてるんだね?」

「そういえばそうみたいだ……」

記憶喪失と言っても、そう言う事は普通に覚えているらしい。

「……じゃあ、大丈夫……だよね?今はポケモンだから。」

と、よく分からない理屈を述べるフィルミィ。

「うん!大丈夫大丈夫!」

カズヤも大丈夫だ、と答えた。

「良かった!」






そして夜…………







「(大丈夫じゃねええええええ!)」

全然大丈夫じゃ無かったカズヤ。

「(いくらなんでも女の子、まあポケモンだけど、それでも流石に緊張するな……女の子と二人で同じ部屋で寝るなんて……フィルミィはもう寝てるみたいだし……僕が人間の姿をしてれば全然緊張しないのかな……?なんていうか、同じポケモンだからこそ緊張するような気がするんだよなあ……え〜っと、この緊張をどうにかするには……そうだ!メリープを数えて…って、そんなんでどうにかなるかっ!ええっと……)」

なんか焦っていたカズヤであった………

「……ねぇカズヤ、まだ………起きてる?」

「あれ?フィルミィ、寝てなかったの?」

声を掛けられるや否や、すぐに気持ちを切り替えるカズヤ。

「……うん……いつもならすぐ寝れるんだけどね……なんだか緊張しちゃって……」

「……大丈夫だよ、探検隊にもきっとすぐ慣れる。僕も色々頑張ってやってみるしね……」

「……ありがとう。ねぇ、カズヤ……(カズヤ……本当はね、私探検隊としてここで修行する事に緊張してるんじゃ無いの……むしろ、それは楽しみなんだ………きっと、あなたと一緒に寝てるから…………多分……私は………)」

何か考え込んでる様子のフィルミィに、カズヤは声を掛ける。

「どうしたの?」

「……やっぱり何でもない……私もう寝るね?」

「……?うん……お休み……」

「うん……お休み…カズヤ……」

フィルミィは、想いを自分の胸の内にしまい、ゆっくりと目を閉じた………

「(…なんだったんだろう?…それにしても、何だかあっという間にギルドに入門しちゃったな〜……確かに探検隊ってのも面白そうだし……今のこの現状に不満があるわけではないんだけど……でも………僕は一体誰なんだ?どこで何をしていてこうなっちゃったんだろう……だいたいどうして僕はポケモンになったんだ…?何で浜辺に倒れていたんだ…?)」

考えても考えても彼の疑問が尽きる事は無かった。

「(……だめだ、もう眠いや……まあ今考えても分かるわけ無いか……とりあえず明日から仕事頑張ろう……そうすれば……きっといつか見えてくる……真実が………)」

そしてこの部屋にもう一つ寝息が増えた………







炎翼龍 ( 2012/07/11(水) 20:46 )