第03話 戦い、その後……
「いた!」
「あそこだ!」
フィルミィ、カズヤの順に、声を挙げる。
そこにいたのは、紛れもなくエアードとイズンだ。
「ん?」
エアードはそれに気付き、振り向く。
それにつられてイズンも顔を向ける。
「おやおや、弱虫君じゃないか?あとさっき一緒にいたヒトカゲも。」
と、いやな笑みを浮かべながらイズンが言う。
「あの、え〜っと、その……」
フィルミィはここまで来て、緊張してしまう。
「どうしたあ?言いたい事があるならはっきり言ってくんねえとわかんねえなあ?」
「ぬ、ぬ……盗んだ物を返して!!」
なんとか緊張を振り払い、そう叫ぶ。
「これの事かあ?」
イズンは懐から、フィルミィの持っていた欠片を取り出す。
「それは…それはとても大事な物なの!だから返してよ!!」
と、フィルミィは勇気を振り絞り、叫ぶが……
「なるほどねえ、余計返せなくなったぜ。」
「ああ。高値で売れるかもしれねえからな。」
エアードとイズンは、やはり嫌な笑みを浮かべそう言う。
「売る!?そんな……そんな事……絶対駄目!」
「フィルミィ、こいつらに何言っても多分通じないよ。力づくでやるしかない……」
「そう、だよね……でも大丈夫かなあ……」
体をぶるぶるっ、と震わせる。
やはり『怖い』、という気持ちがあるのだ。
「大丈夫!僕も手伝うからには絶対助けてあげるから!絶対取り返す……!!」
「カズヤ……」
カズヤの言葉を聞き、フィルミィの頬はまた紅く染まる。
「どうしたんだあ?やるのか?やらねえのかあ?」
「やるんなら相手してやるぜえ?」
エアードとイズンはやる気満々だ。
「(…そうだよね……大丈夫……私は一匹じゃない、カズヤもいるから大丈夫!)」
そう自分に言い聞かせ、
「うん!大丈夫!」
カズヤを見ながら頷き、そう言うフィルミィ。
「よし!」
それに対し、カズヤも頷きながら、そう返す。
「へっ!!後悔するなよ?」
「俺達の強さ、見せてやるぜ!!」
エアードとイズンが戦闘体制に入り、それに続きカズヤとフィルミィも戦闘体制に入る。
「……行くぞっ!!喰らえっ!!」
カズヤは彼らに向かって『ひのこ』を繰り出す。
先程のシェルダー戦で、出し方が分かったようだ。
「そんなのが当たると思ってんのか?」
「よっと!」
エアードとイズンは軽くかわしたが……
「連続だ!!」
カズヤはさらに連続で『ひのこ』を放つ。
「ぐへっ!?」
「あつっ!!」
見事『ひのこ』はヒット、しかも相当効いてるようだった。
「ここまで効くとは……」
カズヤは正直言って、ここまで効果があった事に驚いているが……
「このヤロオ!!喰らいやがれ!!『エアカッター』!!」
『ヒュルルルルル……』
エアードの放ったエアカッターは、エアカッターと言うには遅すぎる…
「遅っ!!」
カズヤも驚く。
「喰らえ!!『ヘドロこうげき』!!」
イズンは、フィルミィに向かってヘドロを発射するが…?
『ヒューン…』
「思ってたのよりだいぶ遅い…」
やはりこちらも遅い……フィルミィも、さすがに苦笑いを隠せなくなっている。
「もしかして…」
「この二匹……」
そして、二匹は声を揃えて言う。
「「めちゃくちゃ弱い…?」」
そう、エアードとイズンは、実は物凄く弱かったのだ。
だから、『ひのこ』もあそこまで効いたし、使う技もへなちょこだったのだ。
「……フィルミィ、一気に畳み掛けよう!」
「うんっ!」
一気に攻めても大丈夫だと確信した二匹は、再び攻撃を始める。
「『ひのこ』!!」
「そう何度も…」
「喰らうかよ!」
二匹は同じ方向に飛び、攻撃を避ける。
しかしそこに隙が生じた。
「今だ!『たいあたり』!!」
『ドガッ!』
「「うぎゃあっ!!」」
フィルミィ渾身の『たいあたり』は、見事二匹に同時にヒット。
二匹は倒れた。
「か、勝った………」
フィルミィは、いくら相手がへなちょこだろうと、「自分がバトルで勝てた事が信じられない」とでも言いたげな表情をする。
「口ほどにも無かったね、さあ、さっきの欠片、フィルミィの宝物を返してよ!」
カズヤはそう二匹に言い放つ。
「ちっ!こんなもん要らねーんだよ!」
「ほらよ!」
イズンはその欠片をフィルミィに投げ渡した。
「ああ…………よかった…………本当に、よかったよぉ…!」
フィルミィは、本当に取り返せた事と、自分の宝物を失わずに済んだおかげか、感極まって涙を流しそうになっている。
「あばよ!!」
「覚えてろよ〜!!」
彼らは悪役定番の台詞を言うと、この場から逃げていってしまった。
「……僕らも戻ろうか…」
「うん…!」
そう言い、カズヤとフィルミィも、海岸の洞窟を後にした……
〜海岸〜
「はあ……本当に取り返せたんだ…………!」
「良かったね。」
カズヤは微笑みながらそう言う。
「ありがとう…!これもカズヤのお陰だよ…!!カズヤがいなかったら絶対取り返す事なんて出来なかった…………本当に……本当にありがとう!!」
フィルミィは喜びの表情を浮かべ、嬉しそうにそう言った。
「そんな……照れるな……僕はちょっと手伝っただけ、フィルミィが頑張ったから取り返せたんだよ。」
カズヤはそう優しい言葉を彼女に掛ける。
「カズヤ…!」
彼女は更に嬉しそうになる。
「……さて、これからどうしようかな……」
そう、カズヤは記憶喪失、もちろん彼には……
「……カズヤ…」
「ん?」
「あの……記憶喪失だったんだよね…?この後、行く宛とか………あるのかな…?」
「……いや、特には……」
そう、彼にはこれと言った行く宛など無いのだ。
「……あの………………あのね…?」
「…?」
疑問の表情を浮かべるカズヤに、フィルミィは勇気を出して言う。
「もしよかったら……本当に、もしよかったらでいいんだけど……………………私と……私と一緒に……………探検隊をやって欲しいの!!」
少し顔を俯きにしながらも、彼女はしっかりと聞こえる声で、そう言う。
「……探検隊?」
「カズヤは頼りになるし、その………ここでお別れもやだから…………////」
カズヤは突然の申し出に悩んでいた。
「(探検隊……どうしよう……そもそも探検隊って何なんだ?分からない事をするのは……いやでも、ここで別れしたとして、この先僕はどうするんだ?どこにも行く宛は無いよな………それに………)」
カズヤは、フィルミィの顔を見る。先程も言ったが、やはり俯き。
だが、少し見えるその表情は、人見知りな彼女が、必死になってそう頼んだんだとすぐに分かる。
「(フィルミィも凄く真剣そうに頼んでくれてるし………)」
「………ど、どう…かな?」
フィルミィは、暫く悩み続けるカズヤに、恐る恐る聞く。
「…………分かった。一緒に探検隊をやるよ。」
「……!!」
彼女の表情は、見る見る内に、明るくなっていく。
「本当!?やったあ!!ありがとう!!実はね、探検隊の名前ももう考えてあるんだ!!」
「へっ?そうなの?」
急に喜び始めたフィルミィに置いていかれそうになりながらも、カズヤはそう聞き返す。
「うん!あのね、羽ばたく探検隊、『ウィングズ』!!……でどうかな…?」
「……いいじゃん!ウィングズ!!」
「……!だよね!じゃあ、カズヤはウィングズのリーダーね!!」
「へっ?………ええっ!?僕がリーダーなの!?普通こういうのは作った人(ポケモン)がリーダーになるべきじゃ……」
「でも、カズヤの方が強いし、頼りになるから…////」
「そ、そっか…」
戸惑いながらも、カズヤは(自分の方が強いとは思っては無いが、一応)納得しておく。
「それじゃ、探検隊ウィングズ!!結成!!」
最初の弱気な感じはどこ吹く風と言わんばかりの明るさ。
それほど、探検隊をカズヤとやれるのが嬉しいのかもしれない。
……カズヤをリーダーにして、探検隊ウィングズが結成された。
これが、歴史に名を残す探検隊の、始まりである……