第02話 二匹一緒に
夕方の海岸で出逢ったヒトカゲ……名を『カズヤ』と言うようだが…?
「カズヤ………カズヤって言うんだ……………」
「………?」
名前を聞いて、何かを考えてるフィルミィに、カズヤは訊ねる。
「ねえ……名前が何か…?」
「え?いや……随分人間っぽい名前なんだね…?」
確かに、カズヤと言う名前はどこか人間っぽい。
フィルミィの名前と比べてみると、何となく分かってもらえると思う。
「だって人間だったし…」
だが、カズヤからしたらそれが当たり前。
何故なら、自分が人間だったからだ。
「へ?あ……そういえばそんな事さっき言ってたなあ……(あんまり信じられないけど、嘘を言ってる様子でも無いしな〜……)」
「……でもそれだけなんだ……他は何も思い出せないんだ……」
「……それが本当なら、一体どうしたら…」
『どうしたらいいのか』、そう言いかけたその時、
『ドンッ!』
「痛っ!」
フィルミィに、誰かがぶつかる。
「おっと!!ごめんよ!」
ぶつかってきた張本人……ズバットは、謝る気なんかさらさら無い様子で、こちらを見てくる。
さらに、ドガースも一緒だ。
「いたたた………何なの…?」
「ズバットにドガース…?」
この二匹は、ギルドの前でフィルミィを見ていた二人組。
「何するの!?」
さすがにフィルミィでも、ここまで悪気満々でぶつかられたら、やはり怒るようだ。
「おいおい、いけねーなあ?嬢ちゃん。」
「宝物は大事にしないといけないぜ?」
「えっ?」
フィルミィが呆気にとられている間に、イズンがさっきフィルミィが気付かずに落としていたある物を拾い上げ、それをフィルミィに余裕な表情で見せる。
「これ、お前のだろ?」
「あっ!」
フィルミィは目を見開いて、それを見る。
それは、不思議な模様が描かれた岩の欠片のような物だった。
(あれは遺跡の欠片!!もしかしてさっきぶつかった時に…!?)
「こいつは貰っていくぜ?」
そう言うとイズンは持っていた遺跡の欠片を自分の懐のバッグに入れてしまった。
「や…!駄目…!?」
フィルミィは少し涙目になってくる。
「なんだぁ?取り返さないのかあ?」
「思った通りの弱虫だったなあ?」
イズン、エアードの順に、そう言う。
「あうぅ…」
反論が出来ず、小さな声を挙げる事しか出来ないフィルミィ。
「その通りだなっ!クククッ!!」
「うぅ…」
フィルミィの声はどんどんしょぼくれて行く。
「(……こいつら……)」
後ろで、カズヤは少し怒りの表情を見せる。
「じゃあな。」
「あばよ!弱虫くんっと!」
そうして二匹は近くの洞窟へと姿を消してしまった……
「…そん、なぁ……私の………大切な………」
フィルミィは涙のせいで、眼が潤んでいた。
それほど大事な物だったらしい。
「…………あれは大切な物だったんじゃないの?」
カズヤが静かにそう言う。
「………いいの、もう……どうせ私が頑張っても取り返せっこないから………」
「それでいいの?」
フィルミィは弱気にそう言うが、カズヤは繰り返し尋ねる。
「うん……」
フィルミィはやはり弱気のまま。
「……………嘘だ。」
「え?」
「いい訳ないじゃんそんなの!!」
カズヤの声が急に大きくなる。
「そんな事……」
「今の君見たら誰だって僕と同じ事言うよ!!」
「でも…」
フィルミィは相も変わらず弱気、それでもカズヤは言い続ける。
「取り返さないと絶対後悔するよ!僕も手伝うから!!」
「え…!?」
「取り返すの、手伝うって言ってるんだよ。」
そう言いながら、ニコっ、と笑うカズヤ。
「本…当…?」
フィルミィの心が少し動いた。
「うん!!」
「でも……私怖いよ……」
少し怯え気味にそう言うフィルミィ。
それでも、カズヤはフィルミィを説得する。
「君が来ないなら、僕一人……じゃなかった、僕一匹でも行くよ。」
「……なん…で…?どうしてそこまで……」
フィルミィの頭を、過去の記憶が過る。
この町に来てから、自分の臆病で人見知りな性格のせいで、友達も出来ず、誰にも助けを求められず、ずっと一匹で生きてきた。だからこそ、カズヤの言葉に疑問を持った。
『どうしてそこまで』、と……
「ただ泣いてる君を、助けてあげたいと思っただけだよ。」
カズヤは、純粋な、『助けたい』という気持ちでそう言った。
フィルミィはカズヤの正直な言葉に彼女は若干顔を赤らめた。
「……フフッ!カズヤっていいポケモンだね。」
フィルミィの顔に、ようやく笑みが戻る。
「そ、そうかな?」
誉められて少し嬉しいのか、頭を掻きながらそう言うカズヤ。
「そうだよ、今時カズヤみたいなポケモンなかなかいないよ?」
今度は、フィルミィがカズヤに笑顔を見せた。
「……ありがとう…………さっ!行こう!!」
「うんっ!」
こうして二匹はエアードとイズンから遺跡の欠片を取り返す為に、一緒に二匹が入っていった、【海岸の洞窟】へと入っていった。
〜海岸の洞窟〜
「ちょっと薄暗いな……」
「でもカズヤの尻尾の炎のおかげでいつもよりは明るいよ。」
「いつもはもっと暗いんだ……」
ここは洞窟。
普通は入口からしか光が射さないので結構暗いのだが、カズヤの尻尾の炎のおかげで多少は明るかった。
「ところで……」
「ん?」
「僕まだ君の名前聞いてないんだけど……」
実はまだ、カズヤはフィルミィの名前を聞いていなかったりする。
そこを考えると、名前も知らない他人にあそこまで言えるのは、カズヤの良い所と言えるかもしれない。
「あ………そ、そうだったね!!えっと、私の名前はフィルミィって言うんだ!」
「へぇ……フィルミィって言うんだね、じゃあ今更だけど宜しくね!」
「う、うんっ!宜しく…!」
フィルミィはとても嬉しそうだった。
彼女は、その人見知りな性格、そして、臆病な性格故に、今まで友達がいない。
だから、この『宜しく』という言葉は彼女にとって、とても嬉しい言葉なのだ。
「あ!カズヤ!後ろ!!」
「へっ?」
カズヤが後ろを振り返るとそこには、『たいあたり』を仕掛けているシェルダーがいた。
「うわっ!」
カズヤはギリギリでかわす事に成功した。
「危なかった〜……」
「怖いけど……戦おう!!」
そう言い、少し震えながらも戦闘体制に入るフィルミィ。
しかしカズヤは…
「な、何でこいつは僕達を襲ってきたんだ?」
「え?」
カズヤは、何故このシェルダーが攻撃を仕掛けてきたのかを分かっていない。
しかし、このポケモンや、後に出てくるポケモンが凶暴な理由は、また後の話……
「(そっか……記憶喪失だから……)」
そんな事をしてる間にシェルダーは再び『たいあたり』をしてきた。
「……!カズヤ!!今はとにかくこのシェルダーを倒そう!!」
「…??とにかく倒せばいいのか……よーし!!行くぞ!!」
カズヤはよく分からないまま戦闘体制に入る。
……………………
「(そういえばポケモンってどうやって戦うんだろう!?技とか出すんだろうけど……)」
よくよく考えたら、今まで人間だったカズヤが、ポケモンの戦い方を知る訳が無かった……
「きゃっ!!」
カズヤが色々考えている内にフィルミィはピンチになっていた。
「いたたたた……」
フィルミィが痛みで動けなくなっている所に、シェルダーは全力で『たいあたり』を仕掛けてきた。
「……!!」
フィルミィは、もう駄目なのかと、目を閉じる。
実際はこれをくらってもまだ大丈夫なのだが、やはり彼女の恐怖心がこのような行動を取らせてしまうのだ……
「フィルミィ!!危ない!!」
その時、カズヤはいつの間にか『ひのこ』を使っていた。
効果こそ今一つだが、動きを止めるには十分だ。
「フィルミィ!今だ!!」
「え?う、うん!!『たいあたり』!!」
『ドガッ!』
『たいあたり』は見事に決まり、シェルダーは倒れてしまった。
「ふう。」
「何とか倒せたね……あ…後、助けてくれて……ありがとう…////」
彼女は顔を赤らめながら、そう言った。
「どういたしまして。ところで、何であのシェルダーは僕達を襲って来たの?」
「えっと……説明が長くなっちゃうと思うから、時間のある時でいいかな?
「うん。分かったよ。それじゃ、先に進もうか。」
「うん!」
二匹は再び歩き始めた……