旅に出る前に実家に顔を出す
高校を卒業するずっと前から、タクアンは旅に出ることを決めていた。
様々な世界を歩いて、見聞を深めることが目的だった。
危険は承知している。ポケモンの中には凶暴で人々に大きな脅威をもたらすものもいる。
それでも、タクアンは色々な世界を見てみたかった。
中学に上がったときから利便性のあるピーマンシティに下宿しているのだが、両親は砂漠の外れのレンコンタウンに住んでいる。
旅の出発がてら、両親に会っていこう。
砂漠の気温差は激しい。朝を狙っていくことにした。
始発の電車にのって一時間半。ひさしぶりの生まれ故郷は相変わらず炭鉱の土っぽいにおいがする。
半年ぶりの我が家も相変わらずだ。
チャイムを鳴らすと、既に作業着姿の親父が扉から顔を覗かせた。
「おお!母さん!タクアンが帰ってきたぞ!」
まだ両親は食事の途中だった。
「来るなら電話のひとつでもしなさいな、朝ごはんアンタも食べる?」
腹は減っていたので頷くと、あることに気がついた。
「親父って自転車とか使うの?」
親父は体力だけはアホみたいにあったはずだ。
親父はどんぶりをお代わりしながら
「旅に出るんだろ?ようやくお前にもこの時期が来たか。」
「アンタの同級生なんてみんな中学生になるまでにパートナーのポケモンを捕まえてるんだからね」
どんぶりを受け取りながら母が言う。
「あの頃は勉強したかったんだよ。良いじゃん、行くことにしたんだから」
「まぁな。というわけでだ」
どんぶりを受け取りながら親父がニヤリと笑う。
「庭に新品の自転車があるだろう。アレをやる。どうせ小遣いも残ってないだろうし、困ってたろ」
「!?」
図星だ。図太い割に鋭いものだ…。
「それはありがたく頂いていくよ。じゃあ、もう行く。暑くなる前に出発したい」
「おう!行って…ああっ!!待て!まだ渡したいもんがあるんだった!」
親父が慌てた様子で納屋を漁って、
「右と左、どっちがいい?」
と聞いてくる。
「…んじゃあ、右で。」
「右だな?ほれ」
モンスターボールを渡された。
「パートナーがいると、心強いもんだぞ」
親父が腰につけていたボールを放り投げると、中からいかにも親父と気の合いそうな風貌のホルードが出てきた。
親父の長年の相棒だ。
「それもそうだな。貰っとくよ。じゃあ行ってきま―――」
「おおっと待て待て。左手のこいつも渡しておこう」
渡されたのは石だった。
「俺がこの仕事に就いてすぐの時に手に入れたんだが、まあお守りだとでも思ってくれ」
「これは?進化の石?」
「それがさっぱりわからん。だが、掘り出した時に一瞬光ったんだよ。透明で綺麗だろ?」
ただのガラスにしては軽いし、プラスチックにしては硬い。よく分からないがとりあえず受け取っておくことにした。
「じゃあ行ってきます」
「おう!」「すぐに帰ってきたら承知しないからね!」
旅の第一歩が刻まれた。