01
目が覚めると、僕は真っ暗な空間にいた。
天井に空いた微かな隙間から眩しい日の光が漏れ出してくる。
その天井に手を伸ばし軽く押してみた。
するとそれは左右にぱかりと割れ、途端にさっきとは比べ物にならないような目映い光が目に突き刺さった。
おもわず顔を歪めながら立ち上がると、視界には見慣れない草原の景色が広がっていた。一瞬頭の中が白一色に染まる。
そして僕は気がついた。
僕がいたあの空間は箱の中だったということに。
箱から出てみると、その箱には何か張り紙が張られていた。
――小さなイーブイです。どうか拾って下さい。
簡素な文字。
いかにも適当に書いであろう乱雑な筆跡。
そしてそれはどこか見慣れていた。
(そうだ、確かにこの字は……)
僕を育ててくれていた大事な人の字だ。
その人がこう言う。「どうか拾って下さい」と。
ここから読み取れる今の状況。
それはあまりにも無惨だった。
そう、僕は捨てられたのだ。
(な、なんで……)
目から涙が溢れ出る。
僕は何も悪いことはしてないのに。
なんで、なんで、なんで。
その三文字が頭の中でぐるぐる渦巻いていた。
その場にうずくまり、顔を押さえ込む。
思えば、確かに最近あまり優しくかまってもらえた記憶があまりない。
自分でも、もしかしたらとは思っていたけど、やっぱり現実となると悲しくてたまらなかった。
(これから……どうしよう)
今の僕には、食べ物も飲み物も帰る家すらもない。
このままでは死を待つばかりだ。
止まらず溢れる涙が、僕の体毛を湿らせてきた頃、目の前の強い日差しが突如何かに遮られるのを感じた。
鼻を啜りながら前を見上げると、そこには僕と同じぐらいの背丈の子が立っていた。
「どうして泣いてるの?」
その子は屈んで僕にそう聞いた。
真っ直ぐに向けられた目は、太陽に反射してキラキラと輝いている。
とても綺麗な目だった。
「ぼ、僕……帰る場所が無くなっちゃって」
ずるずると流れる鼻水を啜り、言葉を必死に繋ぐ。
ちらりと僕の隣にある箱の張り紙を見て、その子は「あぁ……」と呟いた。
「何だかかわいそう。……なんなら、僕の家に来てもいいよ」
思いがけない言葉に自分でも恥ずかしいと思うほど、頭がぴょこんと跳ね上がった。
「え、本当に!?」
「うん、本当さ」
日差しに負けない、優しく輝いた笑顔。その子の顔を見ていたら、何だか不安な気持ちはどこかへ行ってしまった。
「あ、僕はヒノアラシ。君は?」
「イ、イーブイ」
「イーブイか。うん、よろしくね」
こうして僕は、ヒノアラシの家で暮らすことになったのだった。