ヒトカゲの旅 SE












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第7章 異国
第81話 新しい地へ
 ホウオウも見つかり、グロバイル復興も約束され、これで1つ大きな役目を終えた4人。ほっと胸を撫で下ろすのが普通であるが、今の彼らはそうではない。

「……取り残されちゃったね」
「あぁ。俺ら完全に置き去りだよな」

 ヒトカゲ達はただ呆然とその場に立ち竦んでいる。番人達も、ルギアも、そしてホウオウもそれぞれの持ち場に戻っていき、オースにいるのは彼らのみである。
 日も暮れ、辺りは深い青色に染まりつつあった。今からブラッキーのいる宿に戻る時間もなく、なくなくここで野宿することに決めた。岩陰に移動して今後の話し合いを始める。

「あとは、ディアルガ捜しかぁ。こんだけ聞きまわっても情報ゼロだし、困ったな」
「確かにな。ジュプトル、何か考えないか?」

 話を訊こうとルカリオがジュプトルの方を振り向くと、彼は腕組みしながら目を瞑っていた。寝ているかと思いきや、そのまま口を開いて返事をした。

「俺には関係のないことだ。俺はディアルガに用はないしな」

 いつもの調子の、協調性に欠ける返答だ。そこが気に入らないルカリオは口を曲げて面白くなさそうな顔をするが、それはすぐに笑いへと変わるのであった。

「まぁ、どうしてもって言うなら協力してやってもいいぜ。どうせまだ村の復興まで時間があるし、お前ら困ってるみたいだからな」
「見事なツンデレっぷりですね!」

 思わず吹かずにはいられなかったヒトカゲとルカリオは、ジュプトルに背を向けて笑い始める。満面の笑みで爆弾発言をしたラティアスはというと、まるで「そうですよね?」と問いかけているような表情でジュプトルを見ていた。

「い、いい加減にしねぇと本当に殺すぞ……」

 顔を赤らめながら、小声で怒り出した。もちろんラティアスは彼が怒る理由をわかっているはずもなく、首を傾げている。この後ジュプトルをなだめるのに他の3人は一苦労したのだとか。


 結局今後どうするかの話をまとめられないまま、4人に眠気が差してきた。起きてから話しても遅くはないだろうという結論に至り、寝ることにした。
 体を横たえて眠りに着こうとした時、近くから大きな足音が聞こえた。自分達以外に誰もいないはずの場所であるためか、ヒトカゲ達に緊張感が高まる。そして姿を現したのは、以前も突然現れた、逆らえない存在だ。

「しばらくぶりだな」
『げっ、パ、パルキア!』

 思わず「げっ」と言ってしまうほど、ジュプトルを除いた彼らは驚いてしまった。今この場で起こっているのは、彼らが会いたくない、空間の神・パルキアの参上である。

「てめーら、『げっ』って何だよ? 神に向かってよー」

 しっかり耳に入っていたようで、パルキアは不機嫌そうな顔になり、舌打ちまでしている。そしてそんなパルキアが目線を変えると、彼の目にジュプトルの姿が飛び込んできた。
 ジュプトルは今まで以上に目を見開き、声が出ないほど驚き、緊張している。この表情がたまらいのだろう、パルキアはニヤリと笑みを見せつけている。

「どうした? 神を目の前にして怖気づいてるのか?」

 まさにその通りである。こんな短期間に神や、神の側近を見ていて気を動転させない方が難しい。それを知ってか知らずか、ジュプトルをからかうような言い方だ。

「ところで、何か用事でもあるのですか?」
「あぁ、あるとも。俺がこうして直々に出向いてやってんだからな」

 そう言いながら、ヒトカゲ達を覆うようにパルキアは立ちはだかる。ただ話しやすいような位置に来ただけか、逃げるなという意味で立っているのか、その真意は誰もわからなかった。

「ホウオウ見つかったみてーじゃねーか。よかったな」
「えっ、どうして知ってるの?」
「俺は神だぜ? そんなことぐれーすぐにわかるに決まってんだろ」

 今日はやたらと神って言葉使うなぁと思いつつも本人にそれを言えるはずもなく、そのまま黙って話を聞くことにした。話と言っても、訊かれる内容は大体想像がついている。

「そんで、俺が頼んだ件、どうなってる?」

 ヒトカゲ達の予想通り、訊ねられたのはディアルガの行方についてだ。ここに来るまでに聞き込みを続けてきたが、ホウオウの情報でさえ少数であったのに、ディアルガの情報がそれ以上に入るわけがない。ゼロである。

「誰も知らねぇってさ。散々聞き回ったんだけどな」
「だろうな。そんな簡単に見つかるぐれーなら俺がやってらぁ」

 ねぎらいの言葉が一切ないパルキアの発言が何となく気に入らないと感じたルカリオ。何故、自分達にこんな事をさせているのかを改めて問いたくなったようだ。
 パルキアを問いただそうと口を開きかけたところで、パルキアによってそれは遮られた。今度は何を言い出すかと思っていると、意外な言葉が発せられたのだ。

「おい、てめーら全員でポケモニアに行け」
『……ポケモニアへ!?』

 全員が大声を出して驚く。これほど驚く理由、それは“ポケモニア”という言葉にある。
 ポケモニアとは、今ヒトカゲ達のいるポケラス大陸の北東に位置する大陸である。そしてそこはいわば「外国」。言葉こそ同じものの、種族はかなり異なっているのだ。
 突然外国に行けと言われても、4人は困惑するしかなかった。しかもその理由もわからない。パルキアは外国に行って何をしろと言うのだろうか。

「な、なんでポケモニアに?」
「もちろん、ディアルガを捜してもらう。だがそれだけじゃねーぜ」

 そう言うと、突然パルキアは空間を円形に歪める。そして指を鳴らした瞬間、そこにはポケモンと思われる2つの姿が映し出されていた。
 1つは純白の体、巨大な翼、そして炎が吹き出そうな尻尾を持つドラゴン。もう1つはそれとは逆に漆黒の体、巨大な翼、そして電気が蓄まっているような尻尾を持つドラゴンだ。

「ポケモニアには、2人の王がいる。それがこいつら――レシラムとゼクロムだ。こいつらのところへ行って、鍛えてもらえ」
「ちょちょちょ、ちょっと待てって」

 さらに混乱する4人。外国に行けというだけでなく、そこで鍛えろと、しかも王様に会ってというわけのわからない事態を整理するため、ルカリオがパルキアに問う。

「わけわかんねぇよ。外国に行け? 鍛えてもらえ? どういうことなんだよ!?」

 他のみんなも同感だと頷いている。だんだん面倒くさくなってきたのか、パルキアの口からため息が漏れる。少し苛立った顔つきで質問に答えた。

「うっせーなー。いいか? てめーらは俺が目をつけた特別な奴なんだぞ。何かあって死にましたなんてことにならねーようにするためだ」

 どうやら、パルキアのヒトカゲ達に対する期待はそれなりに大きいということが汲み取れる言葉だった。それがわかると、これに関してだけは少し納得できたようだ。

「それと、レシラムとゼクロムは俺らと同じ神族だ。俺の命令ならすぐにきいてくれる」

 そう、レシラムとゼクロムは神族。しかし何かを司っているわけではなく、こちらの大陸でいう番人達のような存在なのである。王の座についているのは、ポケモニア全域を統括し、監視下に置くためだという。
 へぇ、と納得している4人を見て何かを思い出したようで、パルキアが指を鳴らす。すると先程まで映っていたレシラムとゼクロムが消え、代わりに馴染みのある顔が映し出された。

「あっ、バンギラスだ!」
「そして……サイクスだな」
「こっちにはゼニガメ君とカメックスさんだわ」
「あれは、ベイリーフとドダイトスか」

 そこには、道を駆け足で進んでいる仲間達の姿があった。今現在の彼らの姿を見ているのだ。しばらく眺めた後、空間が元に戻っていき、完全に消えてしまった。

「てめーらの仲間は、今こっちへ向かっている。俺があいつらに知らせてやっから、ここを降りた先の海沿いにあるZ便使って先にポケモニアに向かえ」

 そう言うと、ヒトカゲ達に背中を向ける。自分の空間へ帰ろうとしていると直感的にわかったため、ヒトカゲがパルキアを呼び止める。

「待ってパルキア!」
「……何だ?」

 首だけ振り返るパルキアに向かって、ヒトカゲは1つ質問をした――パルキアは何を企んでいるのか、本当の目的が別にあるのではないのかと。
 それを聞き、パルキアは少し無言になる。目線は逸らさぬまま、しばし沈黙があたりを支配した後、いつものような不敵な笑みを浮かべて、こう言った。

「次にてめーらと会うときに、全部話してやるよ」

 これだけを言い残し、自分の空間へと帰っていった。空間の歪みが消えるまで4人は茫然と空中を見続けていた。それがなくなると、我に返って状況を把握し始める。

「なんか、今回も半ば強制的に押し付けられたような気が……」
「あぁ、だけど逆らったらたぶん抹殺されっからな」

 呆れ顔のルカリオが冗談交じりに言う。冗談で済めばいいが、本当に抹殺されそうなのでこれ以上の発言は控えた。発言の後すぐに悪寒がしたという。

「な、何だったんだ今のは……」
「空間の神様のわがままですよー」

 パルキアが去った後もずっと驚きっぱなしのジュプトルに、ラティアスが優しく、言ってはいけない事を口にして落ち着かせようとする。もちろんふざけてはいない。


 通称、「空間の部屋」と呼ばれている、パルキアだけの空間。そこには先程ヒトカゲ達の前で作った鏡のようなものがいくつも存在していた。そこに映し出されているのは、数多くのポケモン達だった。
 ヒトカゲ達はもちろん、サイクスやバンギラスといった仲間、「家族」であるルギア、さらにはレシラムとゼクロムの姿も。こうやって動向を探っているのだろう。

「全てを明かす時、こいつらは死を強いられることになるだろうな。だが、避けては通れねー。この世界で生きたいと思うならな」

■筆者メッセージ
おはこんばんちは、Linoです。

生活リズムがすっかり乱れてしまいました。比較的十分な睡眠時間をとって朝早く起きたつもりでしたが、片付けして2度寝したらもう昼ですよ。そろそろ危ない。

さて、一段落……というわけにはいかず、「ポケモニア」へ行けとの命令が。レシラム・ゼクロムの登場からわかるように、ここではXYのポケモンが出てきます!(ただ物語の進行上出てくるのはごく一部です)
Lino ( 2014/12/08(月) 02:58 )