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第5章 20年
第70話 悲しい結末
「親父のせいでグロバイルが壊滅しただと!?」

 ジュプトルの口から語られた、思いもよらぬ理由だった。それはルカリオの推測からは大きく外れるものであった。信じることが出来ず、ルカリオは自分の推測が正しいかどうか、今一度訊ねようとする。
 近くに置いていた自分のカバンを掴み、その中からあるものを取り出す。中で絶えず色が交じり合っているかのように輝いている水晶のようなもの――ライナスから預かったお守りだ。

「なぁ、答えてくれ。俺の親父がこれを盗っていったから、お前は恨んでいたんじゃないのか?」

 そう考えたのは、最後にジュプトルと対峙した時の出来事に起因する。この時、明らかにジュプトルはルカリオが首にかけようとしていたこのお守りを奪おうとしていた。
 それに加え、カイリューから聞いたグロバイルの話に出てきた、トロピウスが祀っていた「おきもの」。それこそが自分の持っているこのお守りなのではないかとルカリオは推測したのだ。
 このお守りをライナスが盗み、逆に村の形見とも言うべきものを奪われたジュプトルが憤慨し、ずっとライナスのことを恨み、追いかけていたのだろう、そう考えていた。
 それを確かめるべく、このお守りを手に取り、ジュプトルに見せる。するとどうだろうか、目の色が確実に変わり、大きく開いてそのお守りを見ていた。

「……そうだ、だからグロバイルが滅んだのだ!」

 強い調子でジュプトルは言い放った。この言い方だと、ルカリオの推測とは少し違うもののようだ。固まってしまったルカリオに対し、ジュプトルの方から声をかけた。

「……いいだろう、お前に話してやる。俺が見てきたものをな……」



 今から20年前の話。グロバイルでは数十匹のポケモン達が生活を営んでいた。いくつかある集落の1つに、ジュプトル――当時のキモリがいた。まだまだ幼い年である。

「おとーさん、おそといっちゃだめ?」

 キモリが自分の父親に甘えた声で言う。父親であるジュカインのガランドは尻尾を引っ張られ、少しくすぐったそうにしている。

「だめだ。完全に風邪が治ってないだろう。それに、外はあいにくの雨だ」

 家の中から外を見ると、弱いが雨が降っていた。病み上がりの子供が遊ぶには最悪のコンディションである。家で大人しくしているように言い聞かせる。

「じゃあ、いつからおそとでていいの?」
「そうだなぁ、次に晴れたときだな。でもあまり長い時間はだめだからな」

 この年頃だと、「何でもだめって言うからやだ」と思い始める。キモリも例外ではなかったが、いつも優しくしてくれる父親の言うことだからと、だだをこねることはなかった。


 その日の深夜、胸苦しさを感じてキモリは目覚めると同時に違和感を覚えたようだ。何かに導かれるかのように窓へ向かい、外を見ると、半月が出ていた。

「あっ、はれた」

 雲は切れ、雨が上がっている。それだけで興奮を覚え、目もすっかり覚めてしまった。数日間ずっと家にこもりっ放しであったこともあり、欲が抑えきれず、キモリは外に出てしまう。
 夜ならではの涼しげな風、雨上がり後の冴え渡る空気、それが最高に気持ちよいようだ。大きく息を吸った後、家の周りを走り回る。体も軽く感じている。

「……あれ?」

 そんな時だ。深夜にも関わらず、自分以外の誰かがいるような気配を感じ取った。その気配のする方へと歩き始め、家からどんどん離れていく。
 気づいた時には、キモリは村の中心に来ていた。建物の陰に隠れてその気配がする方を見ると、そこにあったのは、トロピウス村長がグロバイルを開墾していた際に手に入れた、「おきもの」が祀られている建物だ。
 この「おきもの」は、この時すでにトロピウスによって、「これはホウオウ様の御慈悲により、この村のために置いていったもの」と民に伝えられていた、立派な宝玉だ。
 その中から、自分より大きな影が1つ飛び出したのをしっかと見た。暗すぎて顔こそはっきり見えなかったものの、月明かりで照らされた部分ははっきりと確認した――右胸にある赤い稲妻印と、刺のある青と黒の右手。

「だれだろう……」

 キモリはじっとその影を目で追っていった。素早く、音を立てずに走り去っていったその影が見えなくなってからほんの数分後、場の空気が一変する。
 突如としてグロバイル上空にのみ黒い雲が発生し、生温い風が一帯を包む。キモリは子供ながらに何かが起こると予感した。それが的中したと理解するまでに時間はかからなかった。
 キモリの後方から、大きな爆発音が聞こえた。さらに爆発による振動がキモリにも伝わってきた。突然揺れだした地面に驚いて、その場で身を縮こませる。

「こわいよ〜、は、はやくかえろ!」

 一目散に家へ向かって駆け出すキモリ。怖さのあまり目を瞑っていたが、再び起きた爆発により目を開けた。すると、衝撃的な光景が繰り広げられていた。

「な、なにあれ!?」

 キモリが見たのは、雲から地面に向かって、黒い大きなエネルギー波のようなものが降り注いでいる光景だった。しかも1度だけではない。数秒に1回のペースでそれは出されていた。
 その黒いエネルギー波は地面や民家に激突し、次々と破壊していく。木々にぶつかった際には火災まで発生している、まさに悪夢としか言いようのない大惨事だ。
 とにかく家に帰ろう、お父さんの傍にいれば安全だ。キモリはそれだけを思うようにして再び走り出した。父親のいる自分の家へ向かって。


 この緊急事態に村全体が混乱していた。もちろんガランドも例外ではない。さらに彼に至っては、息子であるキモリがいつの間にかいなくなっていることに激しく動揺していた。

「キモリーっ! どこだーっ!」

 必死に走り、物陰などを必死に捜す。どこかで怪我でもしているのか、はたまた誘拐されたのか、愛しい我が子がいないことに焦りは募るばかりである。
 この時、ガランドは気づいていなかった。自分の頭上で、倒壊寸前の建物の屋根が今まさに落ちかけていようとは。


 それから数分後、キモリはようやく家付近までやって来た。だが家が見つからない。自分の思い出せる限りで帰り道を進んで辿り着いたのは、自分の家、ではなく、自分の家があった場所だった。

「お、おうちが!」

 先程まであった家が完全に倒壊していた。それと同時に、家族――唯一の父親がいないことに気づいた。自分の周りをぐるっと見回るが、姿はない。

「おとーさん! どこ!?」

 キモリは無我夢中で父親を捜し始める。ひたすら叫ぶ。その途中、たくさんの倒れているポケモン達を目にする。この時はわからなかったが、彼らは既に息絶えていた者達だ。
 だんだん怖くなり、走るスピードも自然と上がる。今にも泣きそうである。そのせいで視界がぼやけて転んでしまうが、転んだその場所の目の前に、捜していた父親の苦しそうな顔があった。

「おとーさん!」
「……キ、キモリか」

 ガランドに抱きつこうとするキモリだが、よく見るとガランドが瓦礫に埋もれている。それだけでなく、明らかに赤い色が辺りに見えている。
 必死に瓦礫から引きずり出そうとするが、子供の力ではどうにもできない。それだけならまだしも、ガランドはその場から抜け出そうとしない。この時すでに死期を悟っていたのだ。

「……キモリ、頼みがある」

 今なら、この子だけなら助けてあげることができるかもしれない。何としてでもキモリだけをこの場から離れさせるべく、ガランドは大嘘をついた。

「隣町に行って……父さんに、リンゴを持ってきてくれ」
「リンゴ?」
「そうだ。それを食べると父さんは元気になれる。さっ、早く……」

 何回もキモリに「大丈夫だ」と言って安心させ、隣町へと行かせようとする。子供であるため、それが自分を危険から護ろうとしてくれている嘘だとはわからずに、父親の言うことだからと信じた。

「う、うん。行ってくる!」




「それが、最後に交わした言葉だ」

 20年前の真相を、ジュプトルが全て語った。誰にも知られることのなかった、グロバイルの歴史。それを知ったルカリオの心境はとても複雑なものであったに違いない。

「じゃ、じゃあやっぱり、俺の親父が……」

 今の話を聞く分には、ライナスが宝玉を奪い去ったため、祟りが起きたという解釈ができる。だがそれを信じられずにいるルカリオ。自分の父親がそんな事をしたと思えないのが当然だろう。

「な、なぁ、嘘だろ? 俺の親父がそんな事するはず……」

 話の内容を受け入れることができず、必死に否定し始めるルカリオに対し、怒りながら犯人はライナスだと言い張るジュプトル。言い合いになったところで、事実は変わらない。
 頭の中では、ジュプトルに嘘偽りはないことはわかっている。だがライナスが、父親が、村を滅ぼすきっかけを作ってしまったと思いたくないと、自分に言い聞かせているのだ。
 頼む、嘘だと言ってくれ。否定し続けるルカリオの思考が止まったのは、突如として聞こえてきた、ジュプトル以外の声による、この言葉によってだ。


「いいや、嘘ではない。事実だ」


 2人は声のする方に目をやると、そこにいたのはライボルトだった。そしてその横にはヒトカゲとラティアス。どうやらたった今ここに着いたようだ。
 ジュプトルはライボルトがいることに、ルカリオはライボルトが言ったことに驚いている。今の会話を聞いていたライボルトは、ルカリオを目覚めさせるような一言を告げた。

「この村の宝玉を取っていったのは、間違いなくライナスだ」

■筆者メッセージ
おはこんばんちは、Linoです。

新しいPCを購入し、必要なソフトやデータを移行するだけで3日かかりました。2TB近くもあれば簡単じゃないですよね、うん。

さて、明かされたジュプトルの過去。ライナスの行動、そしてライボルトの登場。次回、更に真実が明らかにされます。

ちなみに、ジュプトルの父・ガランド(Garand)の名前は、「自動小銃」の意味です。
Lino ( 2014/09/16(火) 22:05 )