第45話 リーダーの威厳?
ガブリアスは獲物を下調べするような目つきでヒトカゲ達を見回している。目を合わせるのを避けたくなるほど、彼の目つきは恐いものだった。
刹那、自身のツメをヒトカゲの首に突きつけたガブリアス。驚きのあまりヒトカゲは首を軽く上に動かしたまま固まってしまう。それにより、ヒトカゲとガブリアスの目線が一致した。
「こいつが……詠唱のできるというヒトカゲか?」
目線を逸らさずにそう言うと、バシャーモが「はい」とだけ答える。ガブリアスの低く、そして重い声はカメックスのそれよりも気迫のあるもので、ヒトカゲでさえ恐がってしまうほどだ。
ヒトカゲをじっと見続けた後、そのツメを今度はアーマルドに向けた。顔にこそ出してはいないが、アーマルドの心の中では断末魔の叫びが木霊(こだま)していた。
「お前が、このヒトカゲと共に行動している仲間だな?」
「は、はい……」
蚊の鳴くような返事がやっとのようだ。またガブリアスはじっと目を見続け、嘘偽りがないかを見極めている。アーマルドはガブリアスの威圧感に負けないよう、必死に耐え続けていた。
やがてそれが終わると、鋭いツメをそっと下ろした。これで終わりかと思ったが、ガブリアスはヒトカゲとアーマルドを掻き分けるようにして前進し、ルカリオにツメを突きつけた。
(やっぱ俺にもかよ〜!)
このガブリアスを見て恐がるものが大半であり、ルカリオも例外ではない。カメックス以上に恐い存在はいないと思い込んでいた分、その恐怖は計り知れないほど大きいものである。
だが、ガブリアスが見ていたのはルカリオの目ではない。左胸にある、赤い稲妻の印であった。それを見れば、彼がライナスの家族であることは一目瞭然だ。
「……そうか、お前がライナスのガキなんだな」
「わ、わかったらそのツメ、お、下ろしてくださいます?」
涙目になりそうなのを必死にこらえて、ルカリオが小さな声で懇願する。3人のことを把握したガブリアスはそっとツメを下ろし、集団の中心に戻ってヒトカゲ達と向き合った。
「俺がこのチームのリーダーのガブリアスだ。今回、お前達をここへ呼び出したのはこの俺だ」
そう、今回ボーマンダに指示し、ヒトカゲ達をここへ連れてくるように言った張本人はガブリアスだったのだ。3人は驚きこそしなかったが、ボーマンダのせいで回りくどいやり方だなと思ったのが本音だ。
「僕達も用があったんだけど、その前に教えて。何で僕達を呼び出したりしたの?」
話を切り出したのはヒトカゲの方だった。自分達がここに呼ばれる理由が思い当たらないでいるようだ。ガブリアスは岩で作られた台座の上に腰掛けると、頬杖をつきながら語り始める。
「そうだな、まずはヒトカゲ、お前だ。俺らは長年探検家をしてきたが、今までに詠唱ができるポケモンなんて見たことがない。純粋に興味を持っただけだ」
やはりどこに行っても、ヒトカゲに興味を持たないものはいないということがわかった。当の本人は「それだけであんな恐い思いをしたのか」と、少々気持ちが落ち込んでいる。
「あとは、お前達から情報を聞きたい。お前ら、ガバイトに会ってるよな?」
ガバイトという単語に反応を示す3人。彼らの顔つきを見てガブリアスは、やはりな、という表情をする。ガバイトの事を知っているという前提で話を進めていく。
「知っていると思うが、ガバイトはグラードンを操って“滅び”を計画している。それを食い止めるのも俺らの仕事だ。何でもいい、ガバイトに出くわした時の情報を俺らに提供してくれ」
彼らも最近になって、ガバイトの事を追っているという。ガブリアスの話によると、ガバイトはグラードンを操るために必要な『赤の破片』を入手するために、各地で動いているという。
殺しこそないものの、建物を荒らしたり、住民に危害を加えたりということが多発しているため、彼らはその元凶となっているガバイトを捕らえることを第一に動いているのだ。
「ガバイトについて……ってよりは、あいつの仲間だな」
先に口を開いたのはルカリオだ。ガバイトと対峙した2回の記憶を整理しながら、ボーマンダの方を向いて詳細を説明し始めた。
「俺らが会ったときには仲間はメタモンしかいなかったが、あいつ、何故かはわからんが、このボーマンダそっくりに変身してたぜ」
ルカリオはボーマンダに指を差しながらそう言った。指を差されたボーマンダはもちろん、チームのメンバー全員が驚愕する。付け加えるように、そのせいでさっきまでボーマンダを敵だと思っていたということも告げた。
「……ボーマンダ、お前どこかでそのメタモンに会ったのか?」
話を聞いたガブリアスが疑いの目つきでボーマンダを見る。凄みをきかせているが、本人は全く動じていない。そして静かに首を横に振った。
「会っていない。会っていたら捕まえてここに連れてきてるぜ」
「だったら何でお前に変身できるんだ?」
再度追求するガブリアス。それもそのはず、おそらくボーマンダがこのチームの一員ということがメタモンにバレているからだ。それを見過ごすわけにはいかない気持ちが前に出る。
「俺にもわからん。要はそのメタモンを捕まえればいい話で……」
「それは無理だよ」
ボーマンダの提案を、ヒトカゲが無理だと断言した。それに続けて、ヒトカゲは困惑した表情を浮かべながらその理由を述べた。
「僕達の目の前で、ガバイトが切り裂いちゃったから……」
メンバーは残念そうにため息を漏らす。一応その詳細も説明するが、普通のポケモンが納得のいくものではない。使えない奴は切り捨てる、このチームにあってはならないことだからだ。
その中で話題に上がったのは、メタモンの消え方だ。黒い粒子状になって消え去る現象など、誰1人として聞いたことがない。ますますガバイトやその後ろにいる存在が気がかりであるとみんなは口を揃えて言った。
「今度は俺から質問させてもらうぜ」
しばらく間を置いた後、ルカリオが前に出る。質問する内容はここに来る前から決まっていた。チーム・グロックスとルカリオを繋ぐ接点――ルカリオの父・ライナスについてだ。
「俺の親父を捜してくれてるそうだけど、何かしらの情報を持っていたら教えてほしい」
ようやく父親についての情報を聞ける、そう思うとルカリオの気持ちは高ぶっていく。しかし、チームのメンバーは何も語らず、ただ何かを拒んでいるような面持ちで俯いていた。
沈黙が続き、ルカリオが焦り始める。彼の心の中では最悪の事態を想像するまでになっていた。その沈黙をガブリアスが打ち破り、質問に答え始めた。
「我々も最善を尽くしている。だが未だ有力な情報は得られていない。というのも……」
「というのも?」
「ライナスのいたチーム・レジェンズのメンバーであるフォレトス、ヨノワール、ヤドラン、エレキブルが何者かによって殺されたからだ」
ルカリオを始め、ヒトカゲとアーマルドも衝撃を受けると同時に、頭の中で記憶がフラッシュバックしてきたのは、今ガブリアスの言った名前の中にもあった、エレキブルの無残な姿。
その犯人は3人にはわかっている。この事実を受け、ルカリオが命を狙われている理由が何となくわかってきたように思えた。
「……ん、お前ら、何か思い当たることでもあるのか?」
ヒトカゲ達の微妙な表情の変化を、ガブリアスは見逃さなかった。それに動じたわけではないのだが、ガブリアスの問いかけにルカリオは咄嗟に「いいえ」と答えてしまった。
「そうか。ならいい。いずれ話す気になれば話せばいい」
ルカリオ達の気持ちを察したのか、ガブリアスはそれ以上追求しなかった。その代わり先程の答えに補足することがあると言い、話を続ける。
「そんな中、唯一生き残っているのがライボルトだ。今我々は彼から情報を得るため、彼の行方を追っている」
この発言から、ヒトカゲ達は推測を立てた。もしチーム・レジェンズのメンバーを殺した犯人が同一のポケモンだとするならば、次に狙うのはライボルトに違いないと。
だとすれば、うまくライボルトを見つけることに成功したら、その犯人を捕まえることもできるという考えに至った。犯人捜しよりも、ライボルトを見つけることが先決と決めたようだ。
次の日の昼、若干寝不足気味の3人は眠たい目を擦りながら、ガブリアス達に別れを告げていた。本当なら宿泊など認められないが、ボーマンダが謝罪のつもりで手配してくれたとゲンガーから聞かされた。
「ヒトカゲ君達、隣町まで一緒に行かなくていいの? 結構遠いわよ?」
ゲンガーがヒトカゲ達を優しく気遣う。できれば一緒に行きたいという気持ちもあるが、一緒にいるところを見られては危ないと判断し、ヒトカゲは丁寧に断った。
「大丈夫。僕には頼れる仲間がついてるからさ」
「それはどいつのことを言っている?」
そこに口を挟んできたのはバシャーモ。心の中では心配しているものの、彼曰く、「正義のヒーローたる者、そのような事を口には出すことは恥である」なのだとか。
「俺らだよ、俺ら!」
バシャーモの言うことにムキになってルカリオが怒鳴る。それに合わせてアーマルドもうんうんと頷く。ヒトカゲはどう思っているかは知らないが、苦笑いしている。
「じゃあ、何かあったらすぐに連絡してくれ」
「その時になったら、また俺が迎えに行ってやる」
ガブリアスとボーマンダが続けて声をかける。信頼しているからか、はたまた2人に怯えているかは定かではないが、ヒトカゲ達は無言で首を縦に振った。
徐々に明らかになってきた事実をしっかり受け止め、3人は1歩ずつ、前進し始めた。