第113話 決戦
「“ほのおのうず”!」
「“ボーンラッシュ”!」
リザードンとルカリオによる攻撃を皮切りに、最後の戦いが始まった。“ほのおのうず”がギラティナの周囲を取り囲み、視界を奪ったところに“ボーンラッシュ”が炸裂する。
「“ドラゴンクロー”!」
大量に降り掛かった波導でできた骨を、ギラティナはすばやく払いのける。同時にその“ドラゴンクロー”の素早さで、“ほのおのうず”ごとかき消してしまった。
「“かみなり”!」
後方から、ルギアが“かみなり”を数発落とす。先程の“にほんばれ”が効いているため命中確度は下がっているが、ルギアの目的はギラティナの翼を落とすこと。当たってしまえばよいのだ。
「空け者が」
「なっ!?」
そう言った瞬間、ギラティナは姿を消してしまった。どうやら“かみなり”を発生させる雲によってできた影の中に入ったようだ。この技はギラティナの固有技――。
「ちっ、“シャドーダイブ”か……」
そして運の悪いことに、直に“にほんばれ”の効力が切れ、薄暗い冥界へと戻ってしまったのだ。これではどこから出てくるかわからない。
「リザードン、ルカリオを抱えて飛んでくれないか? 皆も地面から離れてくれ」
何かを思いついたようで、ルギアは全員に指示を送る。自力で地面から離れられないルカリオはリザードンに抱えられ、他の皆も地面から飛び立った。
“シャドーダイブ”の攻撃距離を伸ばすだけかパルキアは考えていたが、彼の想像とかけ離れた行動をルギアは取った。
「“あまごい”!」
先程のパルキアの“にほんばれ”のアドバイスとは真逆の、より雲による影を作ってしまう“あまごい”を放ったのだ。少ししてルギアの意図していることをパルキアは汲み取り、技を放つ体勢に入った。
「そーいうことか。じゃー2人でいくぜ。せーの、」
『“かみなり”!』
息を合わせ、ルギアとパルキアによる特大“かみなり”が地面へ向けて放たれた。もちろん雷の先には誰もいないが、地面にぶつかって大きな衝撃音を立てた後、全員が意図を把握した。
“かみなり”の電気は濡れた地面に散り散りに広がっていき、全体に電流が走っていった。その様子は地面全体が鏡によって反射された光のように眩しいものになっていた。
当然ながら、地面についている影にも強力な電流が流れるわけで、“シャドーダイブ”で影に隠れていたギラティナにダメージを与えることに成功した。
「ぐっ……!」
攻撃に耐えきれず、ギラティナは影から姿を表した。影から出た瞬間に自身も濡れ、滞留していた電気による痺れが体中を巡っていた。
「もう使わせんぞ。“はかいこうせん”!」
すかさずディアルガが“はかいこうせん”を繰り出す。少しでもギラティナの動きを制限するため、威力の大きい技を使っていく作戦を取りたいようだ。
「“はかいこうせん”!」
負けじとギラティナも応戦する。2人の“はかいこうせん”は強力で、ぶつかった瞬間に爆発を起こす程であった。視界がくらみ、爆風が収まるまで待とうとすると、それを突破してギラティナが攻めてきた。
「“かげうち”!」
「ぐっ、きたか」
ディアルガは一瞬ひるんだが、すぐに立て直した。この間にもギラティナに隙を与えないよう、後ろからホウオウによる援護が入る。
「“じんつうりき”!」
「“しんぴのまもり”!」
ホウオウの“じんつうりき”が発動した瞬間、ギラティナが“しんぴのまもり”を放った。咄嗟に、ホウオウが混乱状態に陥れようとしたのを悟ったらしい。
「“りゅうのいぶき”」
ギラティナがホウオウへ向け“りゅうのいぶき”を繰り出した。そこまでの物理的ダメージは負わなかったものの、運悪く、一時的にまひ状態になってしまった。
「くっ、うまく動けぬ……」
「甘く見るな。“たたりめ”」
“たたりめ”――それは相手が状態異常の時に発動すると威力が2倍になる技。神族ではギラティナのみが使用できる。技をもろに受けたホウオウは悶え苦しむ。
「うぐっ!?」
「まひも有るが故、すぐには動けまい」
一旦ホウオウの動きを封じることに成功したギラティナは次の標的をルギアに向けようとした。だが、思わぬ横槍が入ってしまった。
「“はどうだん”!」
ルカリオによる“はどうだん”だ。詠唱済みの彼の技はリザードン同様、相当な威力を携えている。技をくらったギラティナは黙っていられない。
「汝より始末せん――?」
標的をルカリオに変えようとした際、ルカリオの両隣にディアルガとパルキアがいることに違和感を覚える。この組み合わせで何が起こるのかを瞬時に推測し、ギラティナははっとする。
「まさか……」
「知ってるよなぁ? “はどうだん”を使えるのはこいつだけじゃねーんだぜ?」
そうパルキアが言うと、ルカリオとディアルガ含め、3人は意識を集中する。すると彼らの目の前で波導が集まり、それぞれ球状の形を形成する。そして波導が大きくなるにつれ、3つの“はどうだん”が1つの巨大なものへと変化していった。
「さーくらいな! 特大“はどうだん”のお見舞いだぜ!」
ルカリオ・ディアルガ・パルキアによる連結された“はどうだん”がギラティナへと放たれる。“まもる”で回避しようとしたが、そもそもの威力が規格外。“まもる”のシールドを突き破って攻撃を受けてしまう。
「ぐあっ!」
さすがに応えたようで、ギラティナは苦痛の表情を浮かべる。一気に追い打ちをかけるつもりで、リザードンとルギアがギラティナへと近づいていった。
先程の“にほんばれ”、“あまごい”、そして“かみなり”によって火、水、雷の力を間接的に受け取れる状況にあった。これを利用し、ルギアは以前ミュウツーと戦った時に使用した特別技を出そうとしている。
同時に、リザードンも自身の強力な技の準備をしていた。2人は互いに頷くと、1年前と同じ、「あの」連携技を繰り出した。
「“エレメンタルブラスト”!」
「“ブラストバーン”!」
ルギアの究極技とも言うべき“エレメンタルブラスト”と、リザードンによる“ブラストバーン”。強大なエネルギー波と炎の柱がギラティナを包み込んだ。
「ぐわあぁっ!」
リザードン、ルカリオ、そして神族達の連続攻撃により、ギラティナの体力はかなり削られた。それは彼らも同じであった。詠唱前から体力はほぼ回復していないため、実質限界に近い。
「ギラティナ、私達だって本気だ! もう混沌に帰すだなんて言わないでくれ!」
ディアルガが悲痛な叫びで訴える。もうこれ以上戦いたくない、終わらせたいと神族達は思っているため、一旦攻撃を止めた。
やがて火柱が止むと、ギラティナがその場でじっとして動かずにいた。口から流血が攻撃の威力を物語っている。荒々しい呼吸をしつつも、何かを瞑想するかのように静かに目を閉ざしている。
「大丈夫か……?」
ホウオウがそっと声をかけても、微動だにせずにいる。だが次の瞬間、目をばっと見開いた。その表情は誰が見ても間違いなく、『怒り』を表していた。
「“サイコキネシス”!」
ギラティナは“サイコキネシス”でその場にいた全員の身動きを封じた。これでもかというくらいの力できつく締め上げているため、誰もその場から動けない。
「“りゅうせいぐん”!」
刹那、上空から球状になった無数のエネルギー波が降り注ぐ。交わすことのできない彼らの体に“りゅうせいぐん”が幾度となく直撃する。
どこにこれだけの力が残されていたのだろうかと思わせるほどの威力であり、全員の意識が飛びそうになるくらいまで攻撃を浴びせられている。
攻撃が止んだ頃には、無数の切り傷、吐血、朦朧とした意識にまで追いやられてしまった。そしてギラティナは叫ぶ。
「はぁ、はぁ……これが……我が想い也! 無礼(なめ)るな!」
耳をつんざくほどの大声で叫んだ一瞬だけ気が緩んだのか、“サイコキネシス”の威力が弱まった。その瞬間を逃さず、ディアルガとパルキアは無理やり束縛を解いた。
「“あくうせつだん”!」
「“ときのほうこう”!」
パルキアの“あくうせつだん”で空間を切り取り、ディアルガとギラティナの距離をギリギリまで詰めた。その上でディアルガの“ときのほうこう”を放った。ほぼゼロ距離による攻撃である。
だが、これはミスであった。“ときのほうこう”を繰り出す直前にエネルギーの発光による影ができてしまったのだ。ギラティナはすかさず影に入り、“ときのほうこう”を回避した。
『しまっ……!』
2人が気づいたときには、時すでに遅し。影から出てきたギラティナによる攻撃――“シャドーダイブ”を受けてしまった。
『ディアルガ! パルキア!』
残された者達が声を掛けるが、2人は完全に意識を失ってしまった。力なく落下していき、地面にどさりと倒れ込んでしまう。
「はぁ、次は、汝らだ……」
息も絶え絶えにギラティナが言った。“サイコキネシス”の効力が切れ動けるようにはなったが、近付こうものなら攻撃対象となるため、回復させられない状況だ。
どうすべきか、どうすれば止められるか、それしか考えられずにいるが、策がなかった。力づくでねじ伏せるしかないかと考えていたとき、リザードンが1歩、前へ出た。
「ギラティナ、本気だったんだね……」
「今更何を……」
「僕は多分、あと1回しか技を出せない。これでギラティナに想いが伝わらなかったら、僕の負けってことだよね……」
ある意味、敗北宣言をしているかのようにとれる内容であった。ルカリオはリザードンに諦めるなと伝えようと口を開いたが、先にリザードンの口が開いた。
「でも、僕は勝つよ! 絶対に!」
そう言うと、ギラティナを目の前に身構えた。そしてホウオウの方を振り向き、小さく頷いた。その意図がわかると、ホウオウも黙って頷く。
ギラティナは先に攻撃をしかけねばと、すぐさま戦闘態勢に入る。
「“はかいこうせん”!」
それに対し、リザードンは今出せる渾身の力を込めて、ずっと出さずにいた技をギラティナに放った。
「“せいなるほのお”!」
リザードンから放たれた“せいなるほのお”を見た瞬間、誰もが驚いた。
――炎の色が、青色に染まっていたからだ。