ヒトカゲの旅 SE












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第1章 出逢い
第4話 こいつ何者!?
「“でんこうせっか”!」

 ルカリオは素早くヒトカゲに近づいて攻撃する。両腕をクロスさせてヒトカゲは身体を守り、衝撃を和らげた。

「ちょ、ちょっと、本気!?」

 今の攻撃は少し痛かったらしい。しかしこの攻撃の強さ、どう考えても子供に対するものではない。ルカリオは本気でヒトカゲに向かってきていたのだ。

「当たり前だ! “メタルクロー”!」

 容赦なくヒトカゲに攻撃をくりだしてくるルカリオ。ポフィンを勝手に食べられた挙句、お金を払わないことに相当ご立腹なようだ。

「“メタルクロー”!」

 ヒトカゲも“メタルクロー”をくりだし、お互いの攻撃を相殺した。腕と腕とがぶつかり合い、力比べの状態になっている。

「なっ!? お、俺の攻撃を防いだ!?」

 ルカリオは酷く驚いていた。ヒトカゲが自分の攻撃をまともに防げるはずがない、体格もかなり差があるのに、どうしてこんなに力があるのだと不思議がる。

(こいつ、絶対に普通のヒトカゲではないな。もしかしたら、このガキには特別な何かがあるのかもしれない……よし、この目で確かめてやる!)

 バック転でその場から後退すると、ルカリオはヒトカゲに指を差しながらこう言った。

「予定変更だ。おいお前! 俺と勝負して勝ったら金はいらねぇ!」
「ホントに!?」

 意外な提案にヒトカゲは嬉しそうに聞き返す。もちろん、ルカリオがヒトカゲの事を探るためにこう言ったとは知らないでいた。ルカリオも作戦がうまくいったようで笑みを浮かべている。

「決まりだな。なら早速いくぜ! “みずのはどう”!」
「っていきなり!? “れんぞくぎり”!」

 ルカリオが放った水のエネルギー波がヒトカゲに向かって行った。それに対しヒトカゲは、自分の身体、特に尻尾の炎に当たらないように“れんぞくぎり”で裂いていく。

「“はっけい”!」

 ヒトカゲが割った水はヒトカゲの視界を狭める。それを利用してルカリオはヒトカゲに気付かれぬように急接近、あっという間に目と鼻の先まで辿り着き、至近距離で“はっけい”を放った。

「痛だぁ――!!」

“はっけい”をまともにくらってしまったヒトカゲは、“はっけい”が当たった頭を抱えて痛がった。この様子を見る分には、ヒトカゲはただの子供である。

「もっといくぞ!」

 そう言うと、ルカリオは再びヒトカゲから離れて、両手を自分の脇腹辺りに持っていった。そして次の瞬間、ヒトカゲは驚愕する事となる。


【万物が持ちし躍動よ……】


(えっ、これって……詠唱!?)

 ヒトカゲが驚くのも無理はない。自分以外に詠唱をするポケモンを初めて目にしたのだから。その様子を気にする事なく、ルカリオは続ける。


【我が命に従いて 我が手に集いて力となれ!】


 ルカリオがそういい終わる頃には、ルカリオの手の中には青白いエネルギー弾が作られていた。このエネルギー弾、ヒトカゲには見覚えがあった。

「波導は、我にあり! “はどうだん”!」

 それはかつてミュウツーと戦った時に見たものと同じ技、“はどうだん”。中々の威力があり、相殺しない限り絶対命中する技だ。
 普段のヒトカゲなら相殺できるのだが、ルカリオが詠唱らしきものを唱えたことで動揺し、何もできずに“はどうだん”をくらってしまった。

「どうかな? 俺の得意技“はどうだん”は」

 腕組みしながら自慢気にルカリオは言う。“はどうだん”を受けてひっくり返ってしまったヒトカゲは起き上がり、楽しそうな表情でルカリオを見た。

「すごいね。だけど、僕もできるんだよね〜」

 始め、ルカリオはヒトカゲの言っていることに引っ掛かりを覚えた。ヒトカゲが“はどうだん”を使うのかと思っていたようだが、次の瞬間、ルカリオは血の気が引いた。

【紅蓮の炎を操る神よ 我ここに誓う 我と汝の力ここに集結し時 我の前に現る悪を持つものに 粛正の咆哮を与えん】

(……あらー……)

 実はルカリオが言っていた詠唱らしきものは、ただの雰囲気付けの言葉である。それに対して、ヒトカゲの使っている詠唱は本物。その証拠に、ヒトカゲの周りを風が渦巻き始めていた。

「あ、あのー、ヒトカゲさん……? それって……」

 口元をヒクつかせながらルカリオは立ちすくんでいる。それは詠唱ができることに驚いたのもあるが、ヒトカゲの能力がもっと上がるのではないかと危惧しているからでもある。

「これでルカリオと同じように僕も強くなったよ。いくよ!」
「えっ、ちょっと待っ……」

 どうやらヒトカゲは待ってくれないようだ。ルカリオがそう言った時には既に“かえんほうしゃ”が放たれていたのだ。もちろん、今度は自分が驚かされたルカリオは抵抗する間もなく攻撃、しかも強力なものを受ける。

「次は“だいもんじ”!」
「ええっ!?」

 すかさずヒトカゲは“だいもんじ”をくりだした。“かえんほうしゃ”で、弱点である炎を目一杯受けたルカリオはほぼ戦意喪失状態であったが、ヒトカゲの容赦ない攻撃が続く。

「じゃあ最後! “ブラストバーン”!」
(……俺死んじゃう……)

 調子に乗りすぎたヒトカゲは構うことなく“ブラストバーン”を決めた。もはやルカリオに反撃できるだけの体力と気力は残されてなかった。ルカリオ、哀れ。

「こいつ、何者なんだよ……」

 爆発に近い炎を真正面から受けたルカリオは、目を回して倒れてしまった。それを見てようやく、ヒトカゲは自分がやり過ぎてしまったと少しばかり後悔したようだ。


「……う〜ん……」
「あっ、目覚めた?」

 数時間後、辺りがすっかり夕方になった頃にルカリオは意識を取り戻した。仰向けに寝たまま首を動かして周りを見渡すと、自分は街外れにある草原にいるとわかった。

「あの、調子乗ってごめんなさい。気絶しちゃうと思ってなくて」

 ルカリオの目を見ながらヒトカゲは申し訳なさそうに謝る。少々黒こげになっている胸の体毛をいじりながら、ルカリオは鼻で笑った。

「気にすんな。俺はお前がどんだけ強いか見たかったから、逆によかったよ」

 少しだけ辛そうにして、ルカリオはその場で立ち上がった。

「俺の負けだ。約束どおり、ポフィン代はタダでいいぜ」
「あ、ありがとう!」

 律儀に約束を守ったルカリオはどこか満足気な顔をしていた。それはおそらく、ヒトカゲと一戦交えることができたこともあるが、それよりも大きな理由は自分に足りないものがわかったことだろう。
 探検家としては、世界中のありとあらゆることを知っておきたいというのがルカリオの考え。今回のように、ヒトカゲのような自分が見たことのない特殊な存在を見ることで、自分はまだまだだなと思わされるようだ。

「ヒトカゲ……だったな。これからどこか行くのか?」
「うん。旅に出なきゃいけないからさ」
「そうか。お前くらい強い奴なら、どんな事があっても大丈夫だろ。頑張れよ!」

 そう言うと、ルカリオはヒトカゲに向かってすっと手を差し出した。それに気付いたヒトカゲはルカリオの目を見ながら、がっしりと握手を交わした。その目からは、頑張れよというメッセージが伝わってきたようだ。

「じゃあ、僕行くね!」

 握手をし終わると、ヒトカゲは荷物を持って街から離れる方向に向かって歩き始めた。ヒトカゲを見つめながら、ルカリオは手を振っている。
 ルカリオはそうしているうちに、何か自分の中で異変が起きていることに気付き始めていた。何となくもどかしさに似たものを感じ、じっとしていられなくなった。
 気付いた時には、その場から走り出していた。そして向かった先にいるのは、先程別れたばかりのヒトカゲだ。

「ヒ、ヒトカゲ……」

 息を切らしながらヒトカゲの名前を呼ぶルカリオ。これにはヒトカゲも驚いている。

「ど、どうしたの? 僕忘れ物でもしてた?」

 慌ててヒトカゲはカバンの中を探る。「そうではない」と否定すると、ルカリオは呼吸を整え、ヒトカゲの目線に立ってこう言った。

「……俺、お前に同行したい」

 いきなり、ルカリオはヒトカゲと一緒に旅をしたいと言い出したのだ。突然のことにヒトカゲも再び驚きながらも、その理由を訊ねてみる。

「俺、さっきの一戦でお前に興味を持ったんだ。……あっ、恋愛とかそういうんじゃねーよ!? なんか、親父に近いものを感じて……あーうまく言えねぇ〜!」

 頭をかきむしるルカリオ。ヒトカゲはなんとなくしかその理由がわからなかったが、一緒に旅してみたいと思う気持ちは十分に伝わってきた。そしてそれはヒトカゲも同じだ。

「だからその……俺もいっぱいいろんな事経験したいし、それに1人よりは大勢の方がいいっつーか、つまり……」
「もちろんいいよ」
「えっ?」

 あまりに簡単なヒトカゲの返答に、ルカリオは一瞬聞き間違いかと思い、目を見開いた。聞き返そうとする前にヒトカゲがさらに答える。

「僕も、ルカリオと一緒に旅してみたいな♪」

 今度はハッキリ聞こえた、OKの返事。それがわかるとルカリオは心の中でガッツポーズをきめた。顔からも嬉しさが滲み出ている。

「それじゃあ改めて……俺はルカリオだ、よろしくな!」
「僕はヒトカゲ。よろしくね!」

 再びお互いに握手を交わした。これにより、2人の距離は一気に近づいた。ヒトカゲにとって、ルカリオが旅の仲間でもあり、親友にもなった瞬間であった。

■筆者メッセージ
おはこんばんちは、Linoです。

先日、サバを釣ってきました。バケツに入れても暴れまくってたのを見て、「その生命が尽きる時、汝の身は我が口に入れてやろう」という台詞を思いついた時点で私は少々腐っていると自覚しました。

さて、新しい仲間にルカリオ、もとい、犬が加わりました。ヒトカゲがこの犬をどう手懐けていくかが見どころですね。ちなみに私は柴犬が大好きです。
Lino ( 2013/09/23(月) 05:21 )