第54話 敵討ち 前編
神殿の入り口前。目線を上空にいるプテラに向けるバンギラスとドダイトス。その2人を空中で翼をはためかせながら見下ろすプテラ。互いに睨みあっている。
「先に説明してもらおう。何故俺をわざわざベルデ島まで連れ去り、置き去りにした?」
過去にプテラがナエトルを連れ去った理由を、ドダイトスが訊いた。この行為の目的がずっと謎だったのだ。鼻で笑いながらプテラは答える。
「そんなの、捜査撹乱のために決まってるじゃん。俺ぁ自分の情報が入った金庫の『鍵』さえ手に入ればよかったけど、それじゃ〜すぐに足をつかまれると思ったから、お前を誘拐したと見せかければ警察も混乱するだろ、ってな!」
自分さえよければ他人の事はどうでもいいといった理論だ。実際、プテラはあの時、ナエトルを見殺しにするつもりだったのだ。最低な愚行である。
「……貴様ぁ――!!」
ドダイトスは激怒した。感極まって目には涙が浮かんでいる。一方のバンギラスも怒り心頭といった様子だ。この2人にはもう何も躊躇することはない――ラルフの敵討ちと、彼らの半生を滅茶苦茶にしたことへの復讐だ。
「“あくのはどう”!」
ここまで来たら、どうなっても構わない。徹底的にやってやると誓ったバンギラスはすぐに黒色の波動をプテラに向けて放った。
「“こうそくいどう”!」
それをプテラは“こうそくいどう”で難なくかわした。そしてプテラの目線の先にはドダイトスがいた。
「“タネマシンガン”!」
すかさずドダイトスが無数の種をとてつもないスピードで発射した。だがプテラの目には1つ1つの種がはっきり見えていた。
「“つばさでうつ”!」
飛んで来た種をプテラは翼を使って一気に弾き飛ばした。その種の一部がバンギラスとドダイトスに命中。少しだけ怯(ひる)んでしまった。
「くそっ! “すなあらし”!」
バンギラスは自分の得意とする“すなあらし”で視界を悪くすると同時に徐々にダメージを与えようと考えた。地面の砂が一斉にプテラに向かってまるで生きているかのように上昇していった。
「なら“ちょうおんぱ”!」
向かってきた砂に対してプテラは“ちょうおんぱ”を放った。それにより砂の塊に穴が開き、それと同時に砂が音を立てながら地面へとこぼれていく。
「“ギガインパクト”!」
「じゃあ俺も“ギガインパクト”!」
砂が完全に落ちきったところに、ドダイトスとプテラがほぼ同時に“ギガインパクト”をくりだした。本来なら相手に攻撃し且つ自分の体力を回復できるのだが、2人の技の威力に差がほとんどないため、相殺されてダメージも回復もなかった。
「へっ、2人がかりでも俺に傷1つつけれね〜のか。つまんね〜の」
プテラが地上へ降り、余裕の表情で笑い飛ばした。これにはバンギラスもドダイトスも今までよりさらに逆上した。
「黙れっ! “こおりのキバ”!」
怒りを露(あらわ)にしたバンギラスが一気に攻めた。冷気が漂う“こおりのキバ”でプテラの翼に噛み付いた。
「ぐっ……!」
苦痛で顔を歪めるプテラ。噛まれた所はパキパキと音を立てながら氷が張り付いている。彼にこおりタイプの技は効果抜群だ。だが、次にプテラは思わぬ行動を起こす。
「“ほのおのキバ”」
何と、炎を纏ったキバで自分の翼を自ら噛んだのだ。それにより張っていた氷が溶け、再び自由に翼が使えるようになった。バンギラスは悔しさのあまり地団太を踏んだ。
「“エナジーボール”!」
プテラの動きが鈍くなったと踏んだドダイトスが“エナジーボール”を放った。しかしドダイトスの想像以上にプテラのスピードは鈍っていなく、“エナジーボール”がかわされた。
「いっくぜ〜! “とっしん”!」
そう言うと、プテラは空中で1回転して勢いをつけ、猛スピードで向かってきた。ドダイトスはぐっと構えたが、予想だにしない事態が起きたのだ。
「……はっ! バンギラス! 危ないっ!」
ドダイトスは大声で叫んだ。ドダイトスの目に入ってきたもの、それは“とっしん”の目標が自分ではなくバンギラスに向けられていたプテラの姿だった。
叫んだ時には既に遅かった。バンギラスはプテラの“とっしん”を真正面から受け、吹き飛ばされてしまった。しかもバンギラスの身体はドダイトスに向かってきた。これも避けきれず、バンギラスはドダイトスにぶつかり、2人とも地面に倒れてしまった。
「す、すまねぇ……」
腹を抱えて苦しそうにバンギラスがドダイトスに謝った。幸いにもドダイトスに大きなダメージもなく、すぐ返事を返した。
「お喋りしてる暇なんかね〜ぞ! “はかいこうせん”!」
『なにっ!?』
“とっしん”したのにもかかわらず至って平気な顔をしているプテラが2人へ“はかいこうせん”をお見舞いした。2人はかわせずに“はかいこうせん”を浴びてしまった。結構なダメージを負った。
「……『いしあたま』か……」
バンギラスが冷静に言ったプテラの特性『いしあたま』。これにより“とっしん”の反動を受けなかったのだ。
「そゆこと♪ だけどお前ら、よく耐えられたなぁ」
誉めているのか、それともおちょくっているのか、プテラはけらけら笑いながら言った。その間、バンギラスとドダイトスは小声で何かを話していた。一苦労しながら自分達の身体を起こすと、すぐさま体勢を立て直した。
「じゃあこっちもいくぜ! “じしん”!」
バンギラスは何故かプテラに効果がない“じしん”をくりだした。これにはプテラも頭に疑問符を浮かべながら、地面に大量のヒビが入るのを黙って見ていた。
「俺らのコンビ技だ! “ストーンエッジ”!」
次の瞬間、ドダイトスは“ストーンエッジ”をくりだした。
(……しまった! そういう事か!)
プテラがこの作戦に気づいた時には、“じしん”の影響で鋭くなった岩の欠片が勢いよく空中へ向かっていた。バンギラス達の作戦、それはプテラの翼を撃ち抜くことだったのだ。
慌てて回避しようとするプテラ。しかし先程の“タネマシンガン”のようにはいかず、鋭い岩がビシビシと掠(かす)めていった。ダメージを負ったものの、翼を撃ち抜かれることだけは免れたようだ。
「あんまり俺らをバカにすると、もっと痛い目にあうぜ?」
「……ナメんなよお前らぁ――!」
攻撃を受けたのがよほど悔しかったのか、嘲笑するバンギラス達に対してプテラは怒った。そして加速しながらドダイトスの真上までやって来た。
「くらえっ! “かえんほうしゃ”!」
次の瞬間、何とプテラはドダイトスに向かって“かえんほうしゃ”を放った。予想もしなかった技にドダイトスは抵抗することができず、まともに炎を浴びせられてしまった。
「ぐあぁっ!」
プテラの強さを考えれば、“かえんほうしゃ”の威力は相当高いものだ。身を焼かれるとはこういう事なのだろうか、ドダイトスはそう感じていた。あまりの痛みに四足で立つことさえ困難になり、右足を崩してしまった。
「ドダイトス! こんのっ、“あくのはどう”!」
すかさずバンギラスは“あくのはどう”をくりだした。ドダイトスが苦しんでいる今、自分にできる事をやっていこうと決めたのだ。
「お前にはこれだ! “じしん”!」
またしても“あくのはどう”をかわしたプテラが次にくりだしたのは、“じしん”。空中にいない限り防ぎようのない技だ。“じしん”がバンギラスとドダイトスに襲う。
2人は絶叫した。それ以外に何ができようか。苦痛の表情を浮かべながら、バンギラスもその場に倒れてしまった。2人は意識こそあるが、次に何か攻撃されたら命の危険にさらされる程までにダメージを負っていた。
(まずい、俺ら2人がかりでもこれかよ……)
本気モードのプテラに2人は圧倒されていた。元々相性で見てもバンギラス達は有利とはいえないが、ここまでやられるとは思ってもなかったらしい。
(何か、何か手立てはないだろうか。あるはずだ、あいつを倒す突破口が……)
2人は解決策を考えていると、1つだけプテラを倒す良策があった。だがそれが実行できるかどうかは相手次第。だが可能性は十分にある。その策とは一体どのようなものなのだろうか。