第49話 ディオス島
ディオス島――それはポケモンアイランドの中心に位置しながらも、今まで地図に記載されることのなかった、通称『神の島』。そこには、アイランドに住むポケモンですら知らない事が山のように存在する。それどころか、ディオス島の存在すら知らないポケモンがほとんどである。
まず、ディオス島の概観は岩だらけで殺伐としている。中心には洞窟のようなものがあるが、周りからは中の様子は一切窺えない。この洞窟にはある秘密があるのだが、それは後述する。
ちなみに、この島にポケモンは住んでいない。だが、通常この島にしか現れないポケモンが2匹いる。そのうちの1匹が、今まさにヒトカゲ達が助けようとしている、海の神・ルギアなのである。これにはヒトカゲ達が集めている7つ勾玉が大きく関係してくる。
普段、ディオス島は外部からの進入を防ぐために、全体にバリアがかかっている。もしバリアがかかった状態の中にポケモンがいた場合、意識は残るものの、体の動きを封じられてしまう。
そのバリアを解くために、勾玉の存在があるのだ。7つの勾玉は、云わば「鍵」なのである。各島の勾玉をアスル島の神殿に納めることで、このバリアが解かれるのである。
だがそれだけではなく、ルギアの右腕的存在である伝説の鳥ポケモン、ファイヤー・サンダー・フリーザーが神殿に現れる。実は彼らは勾玉を集めた者をディオス島まで運ぶ役割を担うのだ。
それに加え、もし勾玉を集めた者が悪者と判断されたならば、彼らはその者をディオス島に行かせないようにするために容赦なく攻撃する。
何故ディオス島が神クラスのポケモン達が集まる神聖な場所であるのか、それはディオス島の洞窟の中に特殊なものが存在するからだ。
この洞窟は通称『時空の寺』と呼ばれている。その名の通り、この洞窟の奥には時空ホールが存在する。その穴は2つあり、1つは時間を行き来する穴、もう1つは空間を行き来する穴である。
どうしてこのような穴が存在するのか、それは神々がいくつもの世界を管理するためである。それ故、神と呼ばれしポケモンが移動する手段として用いられることもあるのだ。
なので、普通のポケモン達がこの穴で過去や未来、違う世界へ移動することがあってはならないという理由から、バリアをかけているのだ。
「……とまぁ、こんなとこだな」
フーディンはヒトカゲ達にディオス島について知っていることを粗方説明した。だが自分達が知らない情報があまりに多すぎたため、頭の中での整理が追いついていなかった。
「つまり……どういう事?」
「がくっ!?」
混乱した様子でヒトカゲが言うと、フーディンは宙に浮いているのにも拘らずおもわずコケた。体勢を立て直すと、フーディンはかなり省略した説明を、頭を抱えているヒトカゲ達にしてあげた。
「つまり、勾玉を神殿に納めたら迎えが来るから、ディオス島に連れてってもらえばいいのだ」
「最初っからそう言えよ」
話の内容を理解することができたゼニガメが小声で愚痴をこぼした。その愚痴はフーディンの耳にしっかと届いていたが、そこは村長として敢えて聞かなかったことにした。
(いかんいかん、どうもこの者達のペースに呑まれそうだ。何者なんだ……?)
再度確認するが、ヒトカゲ達4人は超個性的なメンバーの集まりである。
(それにしても、ディオス島にそんな秘密があったなんて知らなかった)
ヒトカゲはディオス島について考え事を始めた。今わかることは、間違いなくディオス島にルギアがいるという事だ。ただ、気になる事がいくつかあるようだ。
(勾玉を集める理由はわかったけど、何でルギアはあんな事を言ったんだろう?)
あんな事とは、以前ヒトカゲがルギアとテレパシーで会話した際、ヒトカゲが「勾玉を集めれば助かるんだよね?」といった質問に対して、ルギアが「おそらくな」と曖昧な返事をした事だ。
(もしかして、ディオス島にルギア以外の誰かいるのかな……?)
フーディンの話が本当なら、ヒトカゲの仮説のつじつまが合うことになる。ヒトカゲが考えたのは、敵にあたる誰かがルギアと一緒にディオス島にいて、共に身体の動きを封じられている状態にあるのではないかというものだ。
バリアを解くことで、ルギアと敵が一緒に身動きが取れるようになり、戦いが始まってしまう。だから「おそらく」という言葉を使ったのではないかと考えたようだ。
(それと、プテラはあの島の存在を知っていた。あの周辺を飛んだことがあるから偶然知って……それとも……)
そう、プテラがヒトカゲとゼニガメをセレステ島へ運んでいる時に通り過ぎた島、それがディオス島だ。この時――プテラが敵だとわかる前に、プテラは既にディオス島の存在を知っていた。
これらを考えていると、ヒトカゲの頭の中では様々な出来事が1本線で結ばれそうな予感がしてきた。だが、どうしてもわからない事が1つだけあった。ヒトカゲとルギアの関係である。
(こればかりはわからない。記憶が元に戻らない限り、何も……)
全てが1つになりそうなところにまた1つ、謎が生まれる。本当に厄介な事に巻き込まれたなとヒトカゲは参っていた。
「どうした、さっきからそんな顔して」
フーディンが声をかけると、ヒトカゲははっと気づいたかのように周りを見渡す。するとみんなが心配そうにヒトカゲを見ていた。
「大丈夫? 何かすごい苦しそうに見えたわよ?」
チコリータがヒトカゲを気遣ってくれた。ヒトカゲの頭は汗をかき、自分が気づかないうちに唸っていたという。
「う、うん、大丈夫。あのさ、ちょっと聞いてくれる?」
汗を拭うと、ヒトカゲは自分の考えた仮説をみんなに話すことにした。自分とルギアを関係はひとまず置いといて、ディオス島で何が起きているのかを予想したものを言った。みんなはなるほどという顔をしながら聞いていた。
「……こうじゃないかなって思って。まだわからない事もあるけどね」
「それなら、わからない事でもまとめてみようか」
そう言うと、ドダイトスはどこからか紙とペンを取り出し、メモを取る準備をした。
「じゃあまず俺から。ヒトカゲの仮説が正しいなら、その敵は誰だって話だな」
ゼニガメが本当に珍しく自分から難しい話に入っていった。これにはヒトカゲやチコリータ、ドダイトスも驚いたようだ。こういう時だけはしっかりするのがゼニガメなのである。
「1番可能性が高いのは……カイリュー達の仲間ね。もしカイリュー達がヒトカゲとルギアの関係を知っているなら、邪魔者を先に始末する、ってことじゃない?」
自分の蔓(つる)を頬に当てながらチコリータは考えた。理由はともかく、敵はカイリューの仲間であるとみてほぼ間違いないだろうとみんなは賛同した。
「じゃあ次に、その原因だな」
今度はドダイトス。何やら気になる事があるようだ。
「ルギアが自分と共に敵をディオス島の中へ行き、身動きを封じる必要があった理由がわからない。戦いの中で偶然起こったのか、それとも故意に……」
「はい、そこまでにしとけ」
4人が必死で考えているところに、フーディンが割って入ってきた。4人はどうしてというような顔になった。
「今考えても仕方ない。これは時が解決してくれるだろう。それに、お前達はそれ以前にしなければならない事があるではないか」
『しなければならない事?』
「そうだ。“特訓”だ」
フーディンの意外な言葉に目を丸くする4人。そんな様子を見たフーディンは大きいため息を1つついた。
「お前達がよっぽど強いならまだしも、そうではないだろう。現に、お前達は敵であるカイリュー達に勝ったわけではないのだろう?」
そこまで言われると、4人は黙りこくってしまった。確かに、今まで戦ってきて“勝った”という事は1度もない。全て状況を打破してうまく避けてきただけだ。
「……お前達、2日ばかり暇はないか?」
突然、フーディンはヒトカゲ達に2日間空けてくれと言い出した。その理由をヒトカゲは訊いた。
「空いてますけど、どうしてですか?」
「ワシがお前達を2日で強くしてみせる」
『ええっ!?』
何と、フーディンがたった2日でヒトカゲ達全員を今より強く特訓してくれるという。特訓してくれるのはありがたいが、2日で効果が出るようなものなのかと4人は少し疑った。
「ふ、2日でいいのか?」
「2日で大丈夫だ。その代わり、相当過酷だからな」
自信満々にフーディンが答えたので、ヒトカゲ達はフーディンの特訓を受けることにした。果たして、その特訓とはどのようなものなのか。