第48話 物知り村長
「それはえれぇ大変な事だな。お前達凄いだ」
ヒトカゲ達はゴースト、そして3バカと一緒に今までの話をしながら、ゴーストの住んでいる村まで歩いている。
「えっ、そんな話アタイ達聞いてないよ!?」
3バカことオオタチ達はヒトカゲ達の事情を聞いて驚いている。まさか自分達の盗みのターゲットがこんな大事を抱えて旅をしているとは思わなかったようだ。
「だって言う必要ないじゃない」
冷ややかな目線でオオタチを見ながらヒトカゲは棒読みで答えた。それにつられるようにゼニガメ、チコリータ、ドダイトスも冷たい視線で3バカを見る。少し可哀想である。
「で、俺らは何をすればいいんだ?」
突然ペルシアンが口を開き、何とヒトカゲ達に協力しようではないかと提案してきた。普通ならこんなに嬉しい話はない。普通ならば。
『じゃあ帰って』
4人は口を揃えて言った。当然の事のようにペルシアンの提案を却下したのだ。それを聞いた3バカはショックを受けてその場にへたり込んでしまった。
「な、何故アタイ達の事をそこまで嫌うの……」
「確かに俺らは泥棒だけど、扱いが酷すぎる……」
「そこまでバカじゃねぇぞ、俺らだって……」
3バカはおいおいと泣きながら嘆いている。どうやらこの3人、本物の悪党ではなく、人情あふれる悪者のようだ。ただ、この3人がバカということには変わりない。
泣くのをやめてもう1度ヒトカゲ達に、自分達にも協力させてほしいと言おうと、その場で立ち上がってヒトカゲ達の方を向いた。
『頼むから協りょ……』
だがそこにはもう誰もいなかった。3バカが泣いている間に誰1人構うことなく先に行ってしまったのだ。あまりの悔しさに3バカは地団駄を踏んだ。
『あーもう勝手にしろ!』
もちろん、言われなくてもヒトカゲ達は3バカを相手にすることなく勝手に旅を続けていた。結局、彼らはヒトカゲ達を追うことなく帰って行った。
それから約1時間後、ヒトカゲ達は村が見えるところまで来ていた。村と言っても、ヒトカゲ達が最初に見たような廃墟が多く並んでいるので、誰かが住んでいる気配はあまりない。
「もうすぐだ。さ、行くだ」
ゴーストの後を1列になってヒトカゲ達は歩いている。その光景は遠足を連想させる程何故かしら楽しそうだ。よほど3バカが嫌だったのだろうか。
「ねぇ、村長って誰なんです?」
「村長はフーディンだ。何でも知ってる偉い方だ」
その言葉を受け、4人は何となくではあるが、フーディン村長から頑固親父のイメージが離れなくなってしまった。ヒトカゲに至ってはフーディンに会った瞬間に怒られそうと思った。過去によほどウインディに怒られてきたのだろう。
「あ、あそこだ」
ゴーストが指した1軒の家。廃墟だらけの村の中に目立つ、そこそこ良いつくりの家だ。そこにフーディンがいるらしい。ヒトカゲ達は駆け足でその家へ近づいた。
「村長〜、ゴーストだ」
家の前に来ると、ゴーストは家の中のフーディンに呼びかけた。すると直ぐに家の中から返事が返ってきた。
「今手が離せないから、みんな入れていいぞ」
大勢で現れることを予知していたのか、フーディンは「みんな」と言った。それに4人は驚きながらもゴーストの案内でみんな家の中に入っていった。
家の中に入ると、みんなに背中を向けているフーディンが胡坐(あぐら)をかきながら宙に浮いていた。その傍にはスプーンが置かれている。
「な、何してるだ?」
不思議に思ったゴーストがフーディンを覗き込むように見ながらそう言うと、フーディンは集中力を高めながらある物を宙に浮かせていた。そのある物とは、何とヒトカゲ達が探している『霊の勾玉』そのものだった。
それを見たゴーストが驚くと、他のみんなもフーディンのところへ駆け寄った。そして何をしているのか見ると、確かに勾玉を宙に浮かばせていた。
「……ふぅ、これで大丈夫だ」
全員が驚いていても構うことなく何か作業を続け、一段落したところでフーディンがようやく口を開く。ヒトカゲ達の方を振り向き、静かに空中に腰を据えた。
「お前達は、この島の異常事態について聞きにきたんだったな?」
誰も何も言っていないのに、フーディンはヒトカゲ達の用件を言い当てた。どうやら少し先の未来の事を予知することができるようだ。ビックリしている彼らが頷きながら返事をすると、宙に浮き上がったまま話を始めた。
「何故、ポケモン達が暴れるようになったか、それはこの『霊の勾玉』のせいだ」
『ええっ!?』
急に勾玉が原因で事件が起こっていると言われても訳がわからないので、とりあえずみんなはフーディンの説明を黙って聞くことにした。
「この島に悪が現れるとこの勾玉が特殊な力を出し、ポケモン達を使ってその悪を追い払おうとする働きがあるのだ。だけど誰が悪かなんてわからないので、結果として見境なしに襲うってことになったようだ」
勾玉にそんな力がある事を知らなかった全員が驚きの声を上げながら聞いている。そしてその悪について気になったヒトカゲが質問をした。
「悪って、誰なの?」
「それはワシにもわからんが、安心してよい。ワシが勾玉を調べたが、もうそんな力は出てない」
もう問題ないようだ。みんなはほっと胸を撫で下ろす。カラカラも嬉しそうにしている。みんなのそんな様子を見ながら、フーディンは今更になって自己紹介をした。
「申し遅れた。ワシがこの村の村長のフーディンだ。ゴースト、この者達は誰だ?」
ゴーストはヒトカゲ達の名前を順々に教えていった。するとフーディンは突然目を瞑り、何かを念じ始めた。ゴースト曰く、これはそのポケモンから出ている波動を感じ取っているのだという。
フーディンが波動を感じ取っていると、ヒトカゲの方を向いた時にその動きが止まった。さらに強く念じているようだが、どんどん険しい表情になっていった。
「……ヒトカゲの波動だけ感じ取れん……」
どういう訳か、ヒトカゲだけ波動を感じ取ることができないとフーディンは言う。初めての体験でフーディンも戸惑っている。
「ヒトカゲ、お前、過去に何かあったりしたか?」
波動を感じ取れない理由がヒトカゲ自身にあるのではないと思ったフーディンは、ヒトカゲに過去について訊いた。ヒトカゲは自分の事について話した。ただ、まだフーディンの事を完全に信用したわけではないのか、全てを話そうとはしなかった。
ヒトカゲは、自分が記憶喪失で、それに海の神様が関わっていて、今海の神様を助けるために勾玉を集めていると簡単に説明した。それを聞くと、フーディンは少し黙った。何かを考えているようにも見える。
しばらくして、フーディンはようやく言葉を発した。
「そうか……悪いがゴースト、カラカラを家まで送り届けてくれ」
ヒトカゲの話と全く関係ない事を口にしたフーディン。何故とも思いながらもゴーストはカラカラと一緒に家を後にする。
「もしかして、あまり公にしたくない話でも?」
自分達とフーディンしかいなくなった部屋でドダイトスが訊ねた。するとフーディンは「そうだ」と小さな声で返事をした。
「これからする話は、本当はあまり口にしてはならない話なんだが、お前達には必要な事だろうから、特別に教えよう」
『どんな話ですか?』
おもわず4人が声を揃えて言った。ここまで来て、知らずに旅を続けるわけにはいかなといった表情だ。それにフーディンは逆に質問をした。
「お前達、勾玉を7つ集めると何が起こるか知っているか?」
もちろんといった表情でゼニガメが答えた。それに続くように残りのメンバーも頷く。
「そりゃあ、ファイヤー・サンダー・フリーザーが現れるんだろ?」
「ふむ、半分正解かな」
どうやら半分は正解しているらしい。フーディンはそれに説明を付け加えようとした。
「もちろん、勾玉を集めたらゼニガメの言うように、伝説の鳥ポケモンが現れる。だがそれだけではない」
『それだけではない?』
何も知らなそうな4人を見て、フーディンはそのまま話そうとした事を一旦止める。一呼吸おいて、彼は口を開いた。
「……どうやら知らないようだから、まず別の話から始めなければならないようだ」
真剣な顔つきに変わったフーディンを見ながら、4人も耳を傾け始めた。そして今から説明される内容は、ポケモンアイランド全体に関わってくる話であると言われた4人は、しっかとそれを認識して聞く姿勢を見せた。
「ワシがこれから話すこと、それは……このポケモンアイランドの聖域とも言うべき、地図にも記載されていない、通称『神の島』と呼ばれる“ディオス島”についてだ」