第12話 敵、襲来!
「へぇ〜そんな事があったの」
食堂で2人はジュラの出してくれた料理をガツガツ食べながら、ジュラとデリバードに旅の目的を説明した。ジュラはカウンターで頬杖をつきながら話を聞いていた。
「お兄ちゃん達、カッコイイ!」
デリバードが尊敬の眼差しで2人を見ながら言った。特に憧れるようなことをした覚えはないのだが、2人は顔を赤らめて恥ずかしがる。
「まぁ、いろいろ大変なんだけどね……あ、これおかわり!」
だがそれでもヒトカゲの食欲は衰えることがなく、喋りつつも食べるスピードはとても速かった。横のゼニガメが思わず手を止めてしまうほどだ。
「それで、ヒトカゲを助けたのが“海の神様”だろうって話になって、捜そうってことになったのさ」
ゼニガメは満腹そうに自分のお腹をなでまわしながら言った。彼の話で気になることがあったのか、ジュラはある質問を2人にした。
「“海の神様”って、ひょっとして昔話に出てくる神様のこと?」
『昔話?』
口を揃えてヒトカゲとゼニガメが言った。昔話のことを知らない2人に、ジュラは「おじいちゃんから聞いた話なんだけどね」と言いながら、それを説明し始めた。
「かなり昔、この世界が異常気象に見舞われたことがあったらしいの。各島はかなりの被害を受けて、このままじゃアイランド全体がなくなってしまうかもしれないって事態になったのよ。その時、ある1匹のポケモンが神様に異常気象を鎮めるように頼むために、旅に出た……」
「それで、それで?」
「そのポケモンは各島に眠るという宝を集めて、とある場所にそれらを並べた途端、海から神様が現れた。そのポケモンは神様にお願いして、アイランド全体の異常気象を一瞬にして鎮めたって話よ」
世界の異常気象を一瞬にして鎮める――それが本当であれば、海の神様は天候を自在に操れることになる。ヒトカゲはまた目を輝かせていた。
「……やっぱカッコいい♪」
すっかり想像上の海の神様に虜になってしまったようだ。ヒトカゲの口からは思わず涎が垂れてしまっている。彼ほどではないものの、ゼニガメも海の神様に少し惚れていた。
「ねぇ、その各島に眠る宝がなければ、海の神様に会えないってこと?」
「そうらしいわよ。ただそれがどんな宝かはわからないけど、その宝には特殊な力があるっておじいちゃんは言ってたわ」
「特殊な力? どんな力?」
「そこまでは聞かされてないわ。でも、この話が本当かどうかもわからないから、あんまりあてにしない方がいいわよ」
ジュラはただのおとぎ話のようにしか言わなかったが、ヒトカゲ達は実話だと思ったようだ。それほど、彼らにとっては本当に起きた出来事のように聞こえたのだ。
(ひょっとして、これが宝かも?)
ヒトカゲはおもむろに荷物の入った袋から、エンテイがくれた『炎の勾玉』を取り出した。とりあえず首からぶら下げ、勾玉をじっくり眺めてみる。宝にも見えるし、ただの鉱石にも見える。
「あら、オシャレね」
ジュラがちょっとうらやましそうに言った。そしてヒトカゲの方を見たとき、椅子に座ったままデリバードが寝ていることに気づいて、そっと毛布をかけてあげた。
「あの、そのデリバードって……」
「この子? 捨てられてたのよ」
捨てられた――そんなことがあるのかと、2人はジュラの言葉にとても驚いた。話を聞くと、デリバードがタマゴの時に、ジュラの家の前に置き去りにされていたのだとか。
「生みの親からの手紙も何もなくてね、見逃すわけにもいかないからアタシが育ててるの」
かわいそうと思いながらも、ヒトカゲは自分と似た境遇に親近感のようなものを覚えた。ヒトカゲも、記憶喪失のせいで本当の親が誰かわからないでいる。
(そっか、この子も親がいないんだ……)
そっとデリバードのことを撫でながらそんな事を思っていた、その時、突如窓の外が青白く光りだした。直後、遠くの方で爆発音が聞こえた。
「な、何かしら?」
ジュラが慌てて外を見たが、暗くてよくわからなかった。ヒトカゲとゼニガメはというと、互いに顔を合わせると、すぐさま店を飛び出して爆発音のした方へ走っていった。
「ちょ、ちょっと! 危ないわよ!」
ジュラは止めようとしたが、その時には2人はもう声が聞こえない距離のところにいた。
その頃、爆発があった場所の近くでは1匹のポケモンが空中をすべるように飛んでいた。そのポケモンは何かを探しているようだ。
「あれぇ、どこなのかな〜? この島にいるはずなんだけど……」
そう言っては、“はかいこうせん”を何発も撃って辺りのものを壊しまくっている。そのせいで怪我をしたポケモンが多数いるが、本人はおかまいなしのようだ。
「ここら辺にはいないのかな。あっちに行ってみよう」
そのポケモンは探しているものがないとわかると、別の方向に向かって勢いよく飛び去っていった。その勢いは凄まじく、草木が激しく揺れるほどだ。
一方、2人は何もない道をひたすら走り続けていた。爆発音がした場所まではかなりの距離があるみたいだ。
「一体何があったんだ!?」
「わからないけど、なんか嫌な予感がする!」
2人はさらに走る速度を上げて爆発が起こったであろう場所に向かおうとした時、前方から黒い塊がこちらに向かってくるのが見えた。
「ゼニガメ、あれ何だろう?」
「ものすごい速さでこっちに来てるぞ!」
その黒い塊は、低空飛行しながら2人の方へ向かってきた。だんだんその塊は大きくなり、ヒトカゲ達が驚いて立ち止まっていると、その塊はものすごいスピードで2人の横すれすれを飛んでいった。
「な、何あのでっかいの!?」
「たぶんポケモンだろうけど、暗くてわかんねぇ。でもまずはあっちに行かなきゃ!」
2人は再び走りだそうとしたまさにその時、後方から声が聞こえた。
「あ〜待って待って!」
その声に気づいて2人が後ろを振り向くと、先ほどの黒い塊が再びこちらへやって来た。最初はわからなかったが、2人の目の前にその塊が降り立つと、はっきりポケモンだということがわかった。
2人の前に現れたポケモン――手足と翼を備えた西洋のドラゴンのような姿で、山吹色の身体。頭には角があり、太い尻尾も持つ――それはカイリューだった。
「よかったぁ! やっと見つかった〜!」
カイリューは2人の方を見た途端、ものすごく嬉しそうに喜んだ。初対面のポケモンを目の前にし、2人には当然何が何だかわからないようだ。戸惑いながらも、ヒトカゲはカイリューに話しかける。
「あ、あの〜、僕達に何か用ですか?」
「そう、僕は君のことを探してたんだよ、ヒトカゲ君」
「へっ、僕?」
なぜかヒトカゲのことを知っているカイリュー。何かあったのだろうかと考えていた、次の瞬間、彼は衝撃的な一言をヒトカゲに言った。
「そう! 僕は君を殺しに来たんだから♪」
カイリューが笑顔でそう言うと、ヒトカゲとゼニガメは固まってしまった。完全に思考が停止してしまったのだ。状況がよく飲み込めていないようなので、落ち着いて整理し始めた。
「えっ、つまり、カイリュー。君は俺らの敵?」
「うん、そういうことになるね♪」
「んでもって、僕を殺すためにここにいるんだよね?」
「大正解♪」
「なんで?」
「そんな事言えないに決まってるじゃない☆」
『…………』
2人はお互いの顔を見ながらまた固まってしまった。しばらくして、今の会話の内容がようやく頭の中で理解できたようで、2人は素直に絶叫した。
『嘘でしょう――!?』
「残念だけど、命乞いしても無駄だからね。“はかいこうせん”」
カイリューは笑顔のまま“はかいこうせん”をヒトカゲに向かって放った。突然の攻撃に慌てながらも、ヒトカゲは何とかかわすことができた。“はかいこうせん”は先ほどまでいた場所の地面を削った。
「マジかいな! しゃあねぇ、ヒトカゲ、下がってろ! 俺が行く!」
「えっ、ゼニガメ!?」
「心配すんな! だてに番長やってたわけじゃねぇからよ!」
ゼニガメはヒトカゲを庇うようにして前に立った。こういう時こそ自分が守らなければ、という正義が彼の中で芽生えたのだ。恐怖で若干震えながらも、その場から動こうとしない。
「あれ、君が戦うの? まぁいっか。先に片づけてあげるよ」
「上等じゃねぇか! 一筋縄じゃいかねぇってとこ、見せてやるよ!」
ヒトカゲが心配そうに見ている中、ヒトカゲを殺すために突如現れたカイリューと、友達を守るためにそれを阻止しようとするゼニガメとの戦いの火ぶたが、今切って降ろされた。