6.ユキノくんの旅立ち
――シラユキタウン。
早朝よりしんしんと降り積もる細雪の中、少年が歩いていた。肩口で切りそろえられた黒髪を巻き込み、枯れ草色の襟巻きに顔を埋めている。防寒着に、新品のリュックサックを背負っている。
少年が足を止めた。ポケモンセンターの前に、年老いたジョーイとラッキーが立っている。ぺこ、と少年は頭を下げた。名残惜しそうに、老ジョーイが言う。「寂しくなるわね」
少年がにやっと笑った。
「すぐだよ。チャンピオンに勝って、この町のジムリーダーになって戻ってくる」
「ふふ」
楽しみにしてるわ、とジョーイが言った。あまり信じてなさそうな微笑みに、少年はむっとする。「それより、なんで待ってるんだよ。いないと思ったのに」老ジョーイはふっと笑った。
「女の勘よ。ねぇ、みんな」
ポケモンセンターから、そっくりで、少しずつ顔つきの違うジョーイ達が出てきた。あっという間に少年を取り囲む。「こっそり行くつもりだったんでしょ」「でも挨拶に来たんじゃん、えらい」「寂しいなぁ」「電話してね」背を叩き、頬にキスし、頭を撫で――「止めろ止めろ! ガキじゃねぇんだぞ!」少年が両手を振り回した。
それを見守っていたラッキーが、少年に近づいた。
「婦長」
少年は乱れた服や髪を手で整え、顔を引き締めた。
このラッキーは、この町でも特に医療技術に長け、厳しくも穏やかな心で町の人々を見守ってきたポケモンである。少年も、幼い頃から世話になった。想いを込めて頭を下げる。
「行ってきます」
「らっき!」
踵を返した小さな背中に、老ジョーイが告げた。
「行ってらっしゃい、ユキノ」
――数時間後。
ジムリーダーが頭に雪を積もらせて、ポケモンセンターにやってきた。
「ユキノは?」
「今朝旅立ちましたよ」
「えっ……俺のジムは?」
「さぁ」
最初のジムとして、華麗に無視されていた。