暗闇より


















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800字こぼれ話 1〜10
2.雨の日の休戦
 リクとアチャモは、初めて同年代に破れた日から、ずっとその少年を探していた。見つけてはバトルを挑んだが、いまだに名前も教えてもらえなかったし、相変わらず勝てなかった。
 その日は何処をどうしても見つからなくて、雨は降り出すし散々だった。雨宿りにポケモンセンターに駆け込んだ。今日は諦めて漫画でも読もうかな、と読書スペースへ近づく。そこに探していた姿があった。「うわ」相手はこちらに気がつき、嫌そうな声を漏らした。反射的に指を突きつけた。「また会ったな! さぁオレと勝負し――」

「この雨のさなかで?」

 少年が言った。窓を見ると、雨脚は強まってきている。大人しくなったリクとアチャモに、少年が嘆息した。頭上のリーシャンと一緒に、本に視線を戻した。近づき、リクが言った。

「何読んでんの?」
「本」

 にべもなかった。

「内容だよ! なーいーよーう!!」
「静かに。ここは公共の場だ」

 ぺら、とこちらに視線を向けずに少年が言った。ぐっと口を閉じ、隣に座る。アチャモが膝に頭を乗せ、疲れた、と目を閉じた。歩き疲れだろう。
 静かに読書をする少年の隣に、いくつかの本が積まれていた。

「全部読むのか?」
「いや、参照しながら読んでるだけ」

 一応、会話の相手はしてくれるようだ。読んでいる本は、分厚くて難しそうだった。

「面白いか?」
「勉強になる。ポケモンの生態とか技の特性について詳しく載ってる」
「……オレにも読めそう?」

 前から本棚にあったその本は、難しそうで尻込みしていた。なんとなしに訊いた言葉に、少年が答えた。「読めると思う」
 がばっと体をソファから持ち上げた。

「ホントに?」
「嘘だと思うなら、今度読んでみなよ」

 淡々とページをめくりながら少年は言った。リーシャンもにっこりした。(絶対読もう)こいつが読めると言ったのだ。絶対に読める。(そしたらまた、晴れた日に勝負だ)

( 2021/05/30(日) 18:38 )