1.緑茶
いつも買うのはミックスオレ。アチャモは喜んで飲んでいたが、リーシャンは首を横に振ってリクへと押し返した。
ウミがいなくなってしばらく経った日のことだ。事件のその後を求めて駆け回ることに、リクは疲れ始めていた。目が合ったリーシャンも暗い顔をしている。あの日から、一度も笑った顔を見ていない。
リクは冷蔵ショーケースにミックスオレを戻した。(好きじゃないのか)アチャモとは違うのだと改めて思った。サイコソーダ、ボンドリンク、モモンジュース――気にしないで、とリーシャンが首を振った。
「……」
何も出来ないことが歯がゆい。(結局、オレは、役には立てないんだよ)パタンと閉じた。ポケットで小銭がチャラチャラと鳴る。(「何か好きなものでも買いなさい、ミックスオレとか」)お母さんがくれたお小遣い。何も買わないわけにはいかない気がして、傷薬を手に取った。
「300円になりますー。今はキャンペーン中でして、お飲み物を一本無料でお付けしております!」
どれになさいますか、とチラシを差し出される。安い紙パックが並んでいる。適当に選ぼうとすると、リーシャンがじっとチラシを見ていることに気がついた。
「……これ」
「はい」
会計を済ませ、フレンドリーショップを出る。もらった緑茶にストローを刺して、リーシャンに差し出した。「あげる」びっくりした顔で、リーシャンが受け取った。「リ?」「オレ、苦いの嫌いなんだ」「リリ」苦笑し、ぺこりと頭を下げてリーシャンが口をつけた。一口飲むと、顔が少し明るくなる。
「緑茶好き?」
「リ」
「そっか」
リクは少し笑って、リーシャンが飲むのを見つめた。(知らない事ばっかりだけど、今日、ひとつ知った)
分からないことばかりではない。少しだけ、前進したような気がした。