暗闇より


















小説トップ
91〜100
98.ポケギア
 いつの時代も、通信機器は進化を続けているものである。

「こちらが最新式の通信機器、ポケナビ≠ナございます。ポケギアから更に進化し、マップ確認時に街の詳細データを表示されるように……」
「へぇー」

 販売員の説明を聞きつつ、ヒナタはポチポチとポケナビを触っていた。
 ポケナビ――正式名称はポケモンナビゲーター。デボンコーポレーションが開発・販売している多機能アイテムである。旅のトレーナーにとって通信機器は欠かせない。ヒナタが小さい頃はポケモンセンターに備えつけの電話が連絡手段のメインで、鳥ポケモン使いは伝書鳥などを使っていた。
 ヒナタはポケギア世代だ。正式名称はポケットギア。マップ、電話、ラジオが使用出来る。ラジオのポケモンミュージックチャンネルで聞くことが出来るポケモンマーチ≠ニポケモン子守歌≠ヘヒナタもお世話になった。ポケモンマーチが流れると野生のポケモンが活性化し、ポケモン子守歌はその逆だ。ポケモンマーチを流してシラミネ山で修行してたら、ポケモン子守歌を流しているトレーナーとかち合ったこともあったなぁと追想した。「お前かー!!」と半泣きで詰め寄ってきた相手トレーナーは、度重なる野生ポケモンとのバトルでズタボロ状態だった。
 販売員の話を半分聞き流し(どうせ真剣に聞いても全ては覚えきれないのだ)、終わった頃合いで「中のデータはどうすれば?」と訊く。「ポケギアをお預けいただければ、こちらでデータも移行します」
 
「んじゃ頼む」

 はい、とヒナタが出したポケギアには、細かな傷が無数に入っている。「絶対壊れないように」と母親が、当時もっとも頑丈なものを贈ってくれた。果たして母心は報われ、ヒナタのあらゆる酷使に耐えてきた代物だ。

「お預かりします。データ移行後はどうされますか? 不要なら無料で処分致しますよ」

 少し考え、ヒナタは言った。

「……いや、持って帰るよ。また返してくれ」

( 2021/09/18(土) 23:29 )