97.お気に入り
カザアナタウン、ジムリーダー・キプカ。
元々仲が悪いというか、結束力のあまりないラチナ地方のジムリーダー勢ではあったが、彼の結婚の知らせには脅威の結束力を見せた。以下コメント一部抜粋。
「困ったことがあればいつでも相談するように」「本当に良いの?」「ほう。こんないい女もったいないなぁ」「……ふむ」「本気の本気の本気!? いやでもそうよね愛は正義……!」
やってきてはキプカのゴーストポケモン達に追い出されを繰り返し、落ち着いてきた頃――キプカの奥さんが出産した。
「あー! あぅあ!」
「……オムツか」
先日ようやく1歳の誕生日を迎えた息子、リマルカを降ろす。ゴーストポケモン達が我先にとオムツ交換の場所を準備しだした。昨日はゴースト、今日はヨノワール、明日はロトム。オムツ持ちなどリマルカの世話をメインでサポートするポケモンは、日ごとに担当が決まっている。ヨノワールはにこにことオムツを手渡し、リマルカをあやし始めた。
「……うぅ」
「ビブバ?」
「あー!!!!!!」
「ビヴァ!?」
リマルカが泣き出し、おたおたとするヨノワール。テキパキとキプカはオムツを交換している。「……落ち着け」「ビバー!!」ヨノワールも泣き出した。
「だから……落ち着けと……」
お前は顔が怖いだの声がでかかったからだの他のゴーストポケモン達が罵る。その後ろから、ジュペッタがリマルカに近づいた。「きー」「……あぅ?」
「ききー」
「あうあ」
リマルカが泣き止んだ。「……よし、いいぞ」オムツ交換を終えたキプカが服のボタンを閉じ、抱き上げる。
「あうあ! あう!」
「……ジュペッタ」
「き?」
「ご指名だ」
しきりにジュペッタに手を伸ばすリマルカ。他のゴーストポケモン達が振り返った。嫉妬の視線をひしひしと感じつつも、ジュペッタはリマルカの手を握った。
「あうあ!」
――それ以来、リマルカのお気に入りはジュペッタである。