暗闇より


















小説トップ
91〜100
95.大量発生
『あの感動をもう一度! 宝石戦隊キラメイジャー一期がBlu-rayになったぞ! さぁ、君も一緒に変身だ!』

 そんなお知らせがあったのは数ヶ月前の事である。ねだりにねだり、お手伝いに東奔西走した結果、燦然と輝くDVDを手に、ヒナタはツキネの家を目指して走っていた。ツキネは飛び飛びの数話しか見たことがない。第一話を! 第一話を見せなくては!
 そしてツキネの家には、巨大な薄型テレビがある。一緒に観てハマってくれたら最高だが、巨大テレビで感動の第一話を再び見られるとあれば感無量である。
 ツキネの家は崖上の大きなお屋敷だ。崖にキャモメの巣がある。クェッ! と群れた鳴き声が飛び交っていた。(マシロタウンのヒナタの家……つけっぱなしのラジオからポケモン大量発生の予報が流れ出す……ザザッ……『次にマシロタウンのお天気。本日は快晴。ところによりキャモメの大移動が発生するでしょう……』……ザッ……)

「クェー!」

 上昇気流に乗って、キャモメの群れが崖下から帆翔していく。逆流する滝のような無数の羽ばたきが空へと滑り落ちていった。滑空。群れは一枚の布のように折り返し、ヒナタの真上を滑翔した。

「わぁっ!」

 ほんの数秒の出来事だった。
 群れが通過すると、ぽつんとした静けさだけが鼓膜に残る。「び……っくりしたぁー!」頭に落ちた羽毛を払いのけた。
 両手に、何も持っていない事にヒナタは気がついた。

【キャモメ:うみねこポケモン/みず・ひこう
 エサや だいじな ものを くちばしに はさみ いろんな ばしょに かくす しゅうせいを もつ。かぜに のって すべる ように そらを とぶ。 
 引用:ポケモン大百科】

 くぇーっ! と遠ざかっていくキャモメの鳴き声を振り返った。群れはどんどん小さくなっていく。

「ま……っまてー!!」

 真っ青なヒナタが、全力で駆けだした。

( 2021/09/18(土) 00:01 )