暗闇より


















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91〜100
94.見ていた人
 ルーローの人々は、アイドルキングのステージ放映の時間になるといっせいにテレビに集まる。ある者は感涙にむせび泣き、ある者は画面を拝み、ある者は食い入るように見つめる。「もはや宗教」と他の街で揶揄されるのも頷ける有様である。
 ――サイカタウンの執務室で、珍しくテレビがついていた。
 パソコンを高速でタイピングし、山と積まれた書類を次々決済していく青年。結い上げられた藍色の髪が、首の動きに合せて左右に揺れる。ノック音に「入れ」と短く告げた。入ってきたレンジャーは連絡を終えると、テレビに視線を向ける。

「……リーダーもバトルアイドル大会観るんですか?」
「仕事だ」

 心底嫌そうな顔で、ギラリとリーダーと呼ばれた男、カイトが睨んだ。

「そうでなければ、誰が」

 バサッと決済済みの書類を積む。「一応、付き合ったかいはあったがな」表彰台に上がる少年少女達を横目に言った。その中の一人に目をつけたレンジャーが声を上げる。
 
「そーかっ! コダチが出場してるから観ていたんですね! リーダーもお人が悪――いっ!?」

 真横の壁にボールペンが垂直に刺さった。

「他に用はあるか?」
「ないっス!」

 「失礼しまっス!」と言い残し、風のようにレンジャーは走り去った。慌てていたのか、扉は開けっぱなしである。カイトは青筋を増やしながら席を立った。『Congratulations!』爆発するような喝采が画面から発せられ、目を向ける。サイケデリックな光がステージを照らし出し、瞬きした次の瞬間には――
 
「……?」

 違和感が。
 巧妙に映されているが、2人足りない。自称プロデューサーのニヤニヤ笑いを思いだし、カイトは舌打ちした。それほど時間を置かずして、ポケナビがけたたましく鳴り響く。

「……もしもし」
『りーだああああああああ!!』

 半泣きの少女の声が鼓膜を貫き、カイトは眉間の皺を増やした。

( 2021/09/17(金) 23:59 )