92.雪
その日、今年初めての雪が観測された。
「まーてー!!」
「たまたまたまたまー!!」
ナギサタウンにも雪が積もった。スパイク付きの靴で駆けるのは子供達だ。雪道を転がっていくタマザラシを追いかけて走る。雪の日のナギサタウン名物、タマザラシレース。同系色のリボンをつけたタマザラシを追いかけ、一番先に捕まえた子供の勝ち。凍結した路面は大変滑りやすく、タマザラシ達も何処までも転がっていく。こける子供が後を絶たないので一時期禁止になった遊びだ。隠れてやる子供が多かったので、諦めた大人達により定期開催されるようになった。
「やった!」「ほかくー!」「うわぁ水路に落ちた!」
次々とタマザラシ達を捕獲する子供達。その横をすり抜けて、残り一匹のタマザラシが転がっていった。
「たまま―!」
3秒ほど遅れて、担当の子供がほうほうの体で走り抜けていく。
「ま……ま……て〜……」
転がり抜けていったタマザラシは、通常のタマザラシよりもかなり小さい。捕まえにくく、こりゃいかんと手を伸ばした大人達の間をすり抜け、何処までも転がっていく。へろへろになりながら、担当の子供が追いすがる。「たまま!」「はう……はや……はや……!」かくんかくんとピンボールのようにあちらこちらにぶつかって折れ曲がり、器用に水路への落下を避けて転がり抜けるタマザラシ。追いかけてくる大人達を楽しそうに回避する様子から、もはや大会の趣旨を間違えていると思われる。
「たまー!」
バッとタマザラシが大きく飛び出した先――「シャワーズ!」「ピュリ!」先回りしたシャワーズが飛び出し、ぶつかったタマザラシが跳ね返る。「オーライ!」駆けてきたホトリの腕に収まった。
「毎度毎度、あんただけミョーに逃走距離が長いねぇ」
「たま!」
むん、とタマザラシが胸を張った。その額をぺちんと叩く。
「そーいう競技じゃないってーの」
「たま?」