暗闇より


















小説トップ
91〜100
91.カゲボウズ
 兄がジムリーダーに就任したと知った日から、よく分からない感情がソラの胸の中にわだかまっていた。その頃から、てるてる坊主のような姿のポケモンがついてくるようになる。名前はカゲボウズ。カザアナの町はゴーストポケモンの楽園だ。一匹二匹程度、気まぐれにくっついてくる事などよくある。カゲボウズは脅かしてくる事もなく、ただただ吸い寄せられるようにぴたりとついてくるだけだった。なんとなく、今の自分にはこのポケモンが必要な気がしてボールを差し出すと、自分から素直に収まった。
 暗い地下の町。深く潜れば、強力なポケモンも彷徨う。怪我をしたゴルバットを助ける時もカゲボウズが役に立った。吸い寄せられるように、こちらへ、こちらへ、と。悲しそうな顔のゴルバットが息も絶え絶えに地面に落下していた。
 カゲボウズをポケモンセンターに預けていたりしている間、妙に気分が落ち込む事に気がつく。不思議に思い、図鑑で改めて生態を確認した。ゴーストの大半は生気を吸う存在だ。そばに置いて気分が落ち込むなら分かるが、逆に離れるとそうなるのはどういう訳か。欲しい情報はすぐに手に入った。何故今まで調べなかったのか、それが逆に不自然なほどだった。
 ――リュックサックを背負った。
 腰のモンスターボールにはクロバットが入っている。もう一つのモンスターボールは、残した家族の元に置いて行く。
 リマルカはかつて、カゲボウズの進化形であるジュペッタを使っていた。今はもうただのぬいぐるみとなったそのポケモンをいまだ手元に置いている。カゲボウズを使い続ければ、いずれはジュペッタへ進化する。リマルカのジュペッタと同じになるか。それとも――。
 ソラは、かぶりを振った。ゴルバットは進化した。それは未来の可能性に対する証明代わりだが、いずれ使えなくなるかもしれないポケモンを連れていく訳にはいかない。
 ――置き去りの暗闇で、カゲボウズが鳴いた気がした。

( 2021/09/17(金) 23:53 )