暗闇より


















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81〜90
90.噂話
「違う! 俺が弱かったんじゃなくて、そのガキが馬鹿みたいに強かったんだってば!」

 ――デコボコ山道、マグマ団アジト。団員達が立ち話をしていた。子供、という言葉にウミはそっと足を止める。「シャモ?」「静かに」唇に指一本立ててみせると、バシャーモが口を押さえた。
 今は任務中だ。デコボコ山道に眠っている伝説のポケモンを求め、リーダー・マツブサが部下数名と地下へ潜っている。立ち話をしている団員は、外からの侵入者を見張る下っ端だろう。ウミはというと、ホムラに言い渡された用事があり、少々場を離れていた。持ち場に戻る道すがら、聞こえてきた噂話だった。岩壁に身を潜め、団員達の噂に耳を傾ける。

「こんなもんの背で、ホラ、ホムラ様にちょこちょこついてるムカつくガキがいるだろ?」
「ワカシャモを連れてる奴か」
「えー、ワタシは可愛いと思うけどぉ。あとバシャーモだから! シャモちゃん最近進化したから! 可愛いよね〜」
「そっちじゃねぇよ!! 脱線したけど、あのガキと同じくらいの歳だったかな」

 ――同じくらいの、歳。
 不意に、脳裏に黒髪の少年が過ぎった。
 
「ジュプトルを連れたガキ! 鬼のように強いのなんのって!」
「あー知ってるぅ。幹部様達もやられちゃったって聞いたけど……マジー?」
「……ゆゆしき事態だな」

 ウミは、くるりとその場に背を向けた。
 ジュプトルを連れた子供なら知っている。実際に戦ったことはないが、幹部が戦っているのを見たことはある。白い帽子を被った、真っ直ぐな目をした少年。あの目を見ると胸の奥がざわざわする。
 ウミはバシャーモと共に、そっと場を離れた。あの少年は、まだ関わるつもりなのだろうか? 子供一人、いくら実力があっても対抗出来るとは思えない。早く現実を知って、諦めたらいい。……取り返しのつかなくなる前に。
 数時間後、侵入者の報告が急ぎ入る。
 侵入者は、ジュプトルを連れた子供であった――。

( 2021/09/17(金) 23:48 )