87.元気の塊ジュース
サザンドラを連れた少年を助けたのは、一昨日の事だ。
助けた翌々日の夕方、ホトリは病室に顔を出した。昨日も顔を出したが「まだ目覚めていません」との事だった。足下のシャワーズがベッドに近づき、少年の顔を舐める。「ピュウ」微動だにしない。受付のジョーイに様子を尋ねたが、今日もまだ目を覚ましていないらしい。
体の傷は治すことが出来るが、根深い疲労感や心の疲弊まですぐに回復出来る訳ではない。ポケモンの技で強制的に回復させることも出来るが、リバウンドのリスクもある。自然と目覚めるのを待つのが一番です、とジョーイは言った。
「えい」
キュッと少年の鼻をつまんでみた。意識のないまま少年の口が開き、呼吸をする。
「……うーん」
ゆらゆらと、ホトリは片手に小瓶を揺らした。たっぷんと音を鳴らす白い液体が入っている。ホトリ特製・元気の塊ジュース。かなり前にタマザラシ達に協力してもらって効力を確認済みだが、人間に試したことは無い。
試したタマザラシは白い煙を出し、だばだばとそこら中を興奮気味に駆け回っていた。
「……うーんん」
ヒナタは現在、行方不明である。この少年は明らかにヒナタの持ちポケであるサザンドラを連れている。できる事なら今すぐに事情聴取したい。ホトリ自身がヒナタとそれなりに親しいので、安否確認に繋がる情報が得たいというのが1つ目の理由。そして2つ目の理由。
人体にこれを使うとどうなるのか、若干の好奇心をそそられる。
「……うーんんん」
「駄目ですよ、ホトリさん」
「あ」
バイタル測定に来たジョーイが、そっと小瓶に手を被せた。
「やっぱ駄目?」
「意識のない人に飲ませると、誤嚥のリスクがあります。起きてからにしてください」
「そっち?」