85.二日酔い
ゴートシティ・スカイハイのポケモンセンターには、他の町と同じように宿泊施設が併設されている。ソラはそちらへ。リクはリーシャンの客室に泊まった。
ソラは昨夜控えておいた部屋番号を手に、客室をノックした。返事がない。キルリアと一緒に強めのノックを繰り返すと、リーシャンが顔を覗かせた。互いに簡単な自己紹介を終え、「リクは?」と尋ねる。
「リー……」
困った様子で、リーシャンが部屋へと招く。一言断って入ると、薄暗かった。照明スイッチを入れると、パッと明るくなる。
瀕死のポケモンのようなうめき声がした。発生源であるベッドに近づくと、仰臥しているリクがいた。瞼の上にタオル氷入りの袋を乗せており、真っ青な顔色でか細い呼吸を繰り返している。
「リク?」
ああ、とか、うう、とか。
言語にすらなっていない奇っ怪な音声があがった。同時に鼻をついた臭いに、ソラは顔を顰めた。キルリアが近寄り、癒やしの波動をかける。リーシャンも自然と癒やしの鈴を鳴らし始めた。
「昨夜――いや、いい。なんとなく分かった」
「う、うう……」
「今日は無理だろうから寝てろ。明日チップ稼ぎに行くってことでいいな?」
リクが手を虚空に彷徨わせ、ベッドの端に手をかけた。持ち上げた頭から氷入り袋が落ちる。這いずるようにベッドから降りると、どちゃ、と床へ崩れ落ちた。
「リー!」
「フィ?」
「い……いく……」
リーシャンとキルリアに助け起こされ、リクはこちらを見上げた。「無理するなよ。まともに立てすらしないのに――」唸るような声をあげ、リクが立ち上がった。
「行く」
ぽかんと口を開く。
止めようとする二匹を押しのけ、よたよたとリクは歩き出した。後を追うと殺気だった目に睨まれる。ソラは両手をあげた。
「勘違いするな」
「……?」
「肩を貸すだけだ」
諦め混じりの声で言い、ソラは手を貸した。