暗闇より


















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81〜90
82.命名
 夢のような現のような空間から弾かれ、リクは仮死状態から復活した。エイパムがギルガルドを引きずっている件やタマザラシが進化している件などへのツッコミをあらかた終え、暗闇の道を歩きだす。引きずられているギルガルドが死ぬほどうるさいが、居場所を見失うことがなくてちょうどいい。
 逆にトドグラーははぐれる危険がある。見失わないように、リクは立ち止まって前を譲った。

「タマ――じゃなかったトドグラー、ゲイシャの後ろを歩いてくれ。オレが最後尾歩くから」

 返事がない。いつもだったら名前を呼べば、元気に飛び跳ねるなりするのに。首を傾げ、もう一度「トドグラー?」と近づいた。手探りでトドグラーの顔に触れると、へにょ、と落ち込んでいるように感じられた。どうして――? ふと、リクはひとつだけ思い当たり、恐る恐る名前を呼んだ。
 
「……タマザラシ=H」
「ウォ!!」

 トドグラー≠ェ元気に返事をする。背後でエイパムの笑い声がしたが、笑い事ではない。リクは額を抑えた。おもむろに膝を折り、トドグラーの顔を両手で挟んで懇々と話して聞かせる。
 
「あのな、進化したんだから、お前はもうトドグラーって名前のポケモンになったんだよ、タマザラシ。だからトドグラーって呼ばれたら返事をす――うぐ」
「ウォム!」

 トドグラーがぐりぐりと頭をぶつけてくる。「だから」「ウゥ!」「トドグ」「ウォン!」「あーのーなー……」どうあってもトドグラーで返事をするつもりはないらしい。はぁ、とため息をつき、数分の格闘の後――とうとう根負けして、その名を呼んだ。

「……タマ」
「ウォ?」
「タマザラシってのは駄目だ。だからタマ! これでどうだ?」

 瞬間、トドグラーが突進してきた。「ウォオオオオオ!!」「うげっふ!?」ぎゅぅっと抱きつき、嬉しそうにウォウウォウと鳴く。今度こそあの世直行便に乗りかけたリクだったが、なんとか踏みとどまり、暗い天井を見上げた。

( 2021/09/17(金) 23:29 )