暗闇より


















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81〜90
81.ツキネちゃんのゴートお掃除大作戦☆
 ツキネがゴートシティ・ジムリーダーに就任して真っ先にしたことは、ポケモンの質入れ全面禁止とその解放であった。それまでも公式に認められていた訳ではないが、表裏問わず反した奴は公開処刑≠フ苛烈さで取り締まったのは、ツキネが初めてである。エスパー能力を遺憾なく発揮し、摘発した違反者は数知れず。「他にもやっている奴がアギャアア!!」「見逃してくれぇ!! 知ってる事はなんだって話すウワア!!」「これはビジネスの話ですよ新任ジムリーダーさ……ちょっと待って待って話をイタタタタ」「フン……この程度の脅して屈すごめんなさい話します話しますすいません」「ふひっひひひ! おイタが過ぎるねお嬢ちゃふむぐっ!!」
 回収したモンスターボールも数知れず。摘発者にかける数十倍の時間をかけてのポケモンへの意向調査――すなわち、元のトレーナーの元へ戻すか、野生に戻すか、スカイハイに居着くか。膨大な時間のかかるデリケートな作業である為、サイカのレンジャーに協力を要請し、ヒナタを始めとした信頼の置けるトレーナーにも協力してもらった。人間への不信が募っているポケモンも多く、いかにエスパー能力持ちのツキネとはいえすぐには捌ききれないという部下の助言を受け入れた形である。
 その中でも特に状態が深刻なポケモンは、ツキネが保護観察の名目で預かった。誰彼構わず攻撃し、自傷さえ厭わないもの。悪事のスリルに依存しているもの。生への渇望が失われているもの。定期的な対話を通じて根気よく治癒を行っていく。
 その中に、ボールマーカーを消すことへの強い拒否を示した個体が複数いた。一見して心身共に安定してはいるが、トリガーによって情緒不安定に陥る。しかしそのトリガーを排除することへ、強い恐怖感を抱くのである。
 調査結果の書類と写真を手に、ツキネは苦々しく吐き捨てた。「……毒婦が」
 ――トリガーとなった人物は、写真の中で穏やかに微笑んでいた。

( 2021/09/17(金) 23:28 )