暗闇より


















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71〜80
79.OYASUMI
意味をしるす方法は大きく分けて二つあり、一つは文字というシンボルを複数連ねることでより複雑な意味を伝達する方法である。もう一つは絵。それは単体で直感的に理解される。
ポケモンは主に、後者の伝達を好む。
現実と非現実の狭間を生きるものたち。非現実に近いほどに、意識は集合の海に浸っている。図象、シンボル、アクセス権。きっかけさえあれば、理解はさほど難しくない。言葉に出来ない感覚こそ意味がある世界。
ふと。
その世界を理解したいと考える人間がいた。
人は、文字というシンボルの連なりを壁に刻んだ。
すると、壁から剥がれ落ちた文字が喋った。
理解出来ない言語を発したが、次々に剥がれ落ちる文字達は理解出来る文章を示した。







 祖父の話は珍しく酷く抽象的で理解が難しかった。いつもだったらもっと分かりやすい言葉で語ってくれるのに。
 最近は目を閉じている時間が増えた。そのまま永遠に眠ったままなのではないかと揺り起こすと、薄く瞼を開く。油の差していない機械のように口を開いた――まだ、眠らないよ。28のアンノーンが彼の周りに浮いている。アンノーンは、残された時間を惜しんでいるように見えた。
 アンノーンが文章を紡ぐ理由が分かるかい、と祖父が言った。文字がアンノーンになったから? と答えると、賢いね、流石私の孫だ、と笑った。
 ――人が文字を刻まなければ彼らは生まれなかった。ポケモンについて知りたいと文字を刻んだら、それ自体がポケモンになってしまったなんて、面白いね。だから鳴き声が理解出来ずとも、そこに確かな繋がりがあると思う。私は少しでも、彼らの伝える意味を汲み取れたのだろうか。その何分か一でも良いから、彼らに私の想いが伝わっただろうか。
 また、祖父は目を閉じてしまった。揺り起こそうとして、それを躊躇った私の前に、アンノーンが連なって文章を作った。
 そこには、こう意味が連なっていた。

( 2021/09/17(金) 23:22 )