暗闇より


















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71〜80
78.地方事情
 ミナモシティ・ポケモンセンター。
 受付のホールにはテレビ画面が設置されており、トレーナーが寄贈した本も多く配置されている。それらはポケモンの回復を待つトレーナーの、良い退屈しのぎとなっている。ポケモンの回復・宿泊以外でも、立ち寄るトレーナーは多い。
 今日のバトルで傷ついたアチャモとリーシャンの回復待ちの間、リクはエントランスホールのテレビ画面を眺め、ウミは本を読んでいた。

『さぁここからどう巻き返す挑戦者!』
「……お前さぁ、どのジムリーダーが好き?」

 テレビではジムリーダーと挑戦者のバトルが放映されている。ウミは視線を本に落としたまま、「……ミカンさんかな」と答えた。

「ミカンさん?」
「ジョウト地方アサギジムのジムリーダーだよ」
「分かった! お前、ジョウト出身だろ!」

 ウミが表情を変えず、「違うけど」と即答した。焦った様子もないところを見るに、本当に違いそうだ。「ならカントー?」再び、違う、と一言。ウミは同じページを読みながら言った。「何処でも良いだろう」

「お前の街、ジムある?」
「君も大概しつこいな」

 本を閉じる。「ジムはあるけど、今はジムリーダーが不在だ」リクが指を鳴らした。「分かったトキワシティだ!」

「違う。昔は不在だったけど、今はグリーンさんがジムリーダーだ」
「くそ〜……」


 ジムリーダーが長期不在の街はそれほど多くない。答えまであと少し――リクは腕を組んで真剣に考え出した。ウミは本棚に本を戻して素っ気なく言った。「僕がどこ地方出身でも、君は関係ないだろう」

「ある」
「どうして」
「ホウエンを制覇したら次はお前の地方だ」
「は?」

 振り返ったリクの目は本気だ。自身の地方の事情を思い起こし、わりと本気で忠告する。

「……うちの地方は、止めた方が良いと思うけど」
「止めたって無駄だぞ。絶対お前の地方にも行ってやる」
「好きにしなよ」

 ――ただし、オススメは出来ないけど。
 続きの言葉は飲み込んだ。

( 2021/09/17(金) 23:11 )