75.残された者の推測
手のひらにルーロ―ジムバッジ。あの日にソラに敗れてからやっと手に入ったバッジではあるが、気分はなかなか晴れない。試合に勝って勝負に負けたような気分だ。アイドルキングにまで「Smile.Smile!」とからかわれた。リクやソラは何処へ消えたのか。(くそ。こんな事なら、あのクソ雑魚ド底辺からポケナビの番号だけでも聞き出しときゃ良かったな)
「……待て。もしかしたら」
思案する。サイカのジムリーダーと会話したとき、はっきりと本人の口から弟だと聞いた。
推測するに、リクは理由があってこの地方に一時的に来ている。それにソラが、なんらかの形で関わっている。アイドルキングが「深く関わるな」とアピールするからには、ただ事ではない。
仮にも弟がただならぬ事態に関わっているというのに、それを見過ごす兄、しかも治安維持組織のトップがいるだろうか?
「……サイカか」
故郷のシラユキタウンは雪に閉ざされ、入る事が出来ない。気にかからないと言えば嘘になるが、あそこは四天王の一人が頻繁に出入りしている。ふざけた性格のジムリーダーもいるが、ムカつくことに実力は折り紙付きだ。欠片も心配要らない予感しかない。
サイカに行けば情報が手に入るかもしれない。だが道がない。(振り出しに戻ったな……)ため息をついて部屋を出ると、フロントにケーシィを連れたおっさんがいるのが目についた。
「あんたテレポ屋か。何やってんの」
「よくぞ訊いてくださいました。最近災害が多いので、故郷が心配で戻りたいってトレーナーを格安で送るボランティアにいそしんでいるんでございます」
「……へぇ。故郷じゃなくてもいい訳?」
「もちろんでございます」
「ちょっと待ってろ」
テレポート屋を待たせ、荷物をまとめて戻ってくる。「どちらまで?」と問う相手に、金を渡してユキノは言った。
「――サイカまで」