73.とても暑い
夏だ。
「……うっ」
ホムラはベッドから身を起こした。窓の外は暗い。虫ポケモンが鳴いている。日中は暑さを感じるが夜間ともなれば少しは過ごしやすくなる。とはいっても、少しは、であって、決して暑くない訳ではない。「はぁ……」どんよりとため息をつき、汗で額に張りつく髪をかき上げる。手の甲で垂れてくる汗を拭うと、ふわふわとした羽毛も一緒にくっついてきた。すぐ隣で眠っているバシャーモのものだ。
マグマ団にいた時期、とても寒かった事もあり、ホムラはアチャモと一緒に眠っていた。しばらくしてアチャモはワカシャモに進化した。当然のように一緒に布団に潜ってくるワカシャモに、ホムラは嫌な予感を覚えた。その時はまだ良かった。肌寒い時間の方が長かったから。
そして当たり前だが、時は過ぎ、だんだんと暑い季節になってきた。マグマ団では寝泊まりする場所に冷房が入っていたり、比較的涼しい地下だったり、あるいは暑さなど気にしている場合じゃなかったりして、問題なかった。
しかしこの宿の部屋には、冷房が入っていない。
すぐ隣のベッドで眠っているアカが入れないからだ。ホムラに、勝手につける度胸はなかった。しかしどういうことか、汗一筋かかずにアカは眠っている。
ふと、アカのベッドが妙に盛り上がっていることに気がついた。もしかしたら――たくさん氷枕でも仕込んでいるのだろうか。あまり人間味を感じられない人物だが、さすがに体温調節機能が死んでるなんてことはあり得ない。まだ垂れてくる汗を拭い、Tシャツにぱたぱたと空気を入れ、ホムラはベッドを出た。そしてアカの布団を、慎重に少しだけめくってみた。
たくさんのヤヤコマと、エンニュートの足が見えた。
そっと戻した。
「……気のせい……気のせい……」
ぶつぶつと呟きながら、ホムラはベッドに戻った。