64.旅人と少年達
珍しい光景を目にして、思わず足を止めた。
「アチャモとリーシャン?」
ホウエン地方ミナモシティは、港街。他地方から船に乗ってやってきたこの街で、私は自身のポケモンと一緒にバトルを見守った。両方とも少年だ。ラフな格好からして旅のトレーナーではなさそうで、街の子供に見える。だが両者とも使っているのは水ポケモンではないのが気にかかった。
「へぇ……」
転がっていくリーシャンにアチャモが弾かれたが、すぐに飛び起きる。火の粉を放つも紙一重でリーシャンが避ける。実力は――リーシャンの方がやや上か。アチャモのトレーナーは勢いはあれど突っ込みすぎるきらいがあり、対するリーシャンのトレーナーは冷静そのものだ。案の定、アチャモがひっくり返った。「頑張れシャモ!」少年の一声で跳ねるように飛び起きる。「ちゃもっ!」「リ!?」火の粉がリーシャンにぶつかるが、アチャモも気力を振り絞ったらしく倒れ込んだ。
「懐かしいわね」
コクン、と私のポケモン――バシャーモが頷いた。口数の少ない彼だが、表情が緩んでいるのが分かる。やいやいと言い合ってる少年達を見ていると、自分の若い頃を思い出す。私は少年達の方へと歩き出した。
「ねぇ、君たち」
「ん?」
「……こんにちは」
アチャモのトレーナーはあけすけに「誰?」と聞き、リーシャンのトレーナーは若干の警戒混じりに挨拶をしてくれた。にっこりと片手をあげて旅人だと名乗る。本来ならレベル差がありすぎる相手とは戦わないのだが――この少年達を見ていると、なんだかうずうずしてくるのだ。
「私はこの地方には来たばっかりで、まだバトルしたことがないの。――貴方たちとのバトル、楽しそうだわ。明日、改めてお相手願えないかしら」
少年達は顔を見合わせ、答えた。片方は元気に笑い、片方は丁寧に。
「いいよ、相手してやるぜ!」
「こちらこそ、胸をお借りします」