暗闇より


















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61〜70
62.気になる子・表
 私には、最近とっても気になる男の子がいます。
 さらさらの黒髪、ぱっちりとした宝石みたいな目、雪のように白い肌の子です。先輩から男の子だと聞いて、とてもびっくりしました。私のバイト先はポケモンカッフェ。店員さんはみんな、メイド服を着てパートナーのポケモンと一緒に働きます。だから彼がメイド服を着るのも普通なのですが……彼は、バイトが終わった後もずっと女の子の格好をしています。それはそれはよく似合っていて、とても可愛くて、やっぱり女の子なんじゃないかなぁと思ってしまいます。ある日、勇気を出して理由を訊いてみました。

「ゆっゆっ……ゆきのくんはっ! どぉして女の子の服を着るの?」
「似合うから」

 その通りです。とてもよく似合っています。私はぶんぶん頭を振って同意しました。でも、本当は他に理由があったのです。ミミロップをつれた先輩――お店で一番強くて、ユキノ君ともよくバトルしています――が、こっそり教えてくれました。彼は、どうしても勝ちたい相手がいるそうです。バトルアイドル大会で敗れた事がすごく悔しくて、ポケモンの強さだけでなく、美しさも磨こうと思ったそうです。それを聞いて、ますます気になる存在になりました。今日もユキノ君をこっそり見つめます。すると、バイト中にもかかわらず、ユキノ君はこちらに近づいて言いました。

「最近ずっと見てますわよね」
「きっ……気がついてたの……?」
「わたくしに、何かご用ですの?」
「……ゆっ……ゆきのくんは……いつも自信満々で……凄いなって……思って……見てました……」
「貴女はいつも、自信がなさそうですわよね」
「うっ……うぅ……」
「……可愛いんだから、自信を持った方がいいですわよ」

 私は、ぱっと顔をあげました。ユキノ君はさっさと踵を返してバイトに戻ってしまいました。私の肩にポンと手が置かれます。パートナーのボスゴドラが親指を立てていました。

「わたっ……わたし、頑張る!」
「グォ!」

( 2021/07/25(日) 13:26 )