60.エスパー
マシロタウンの町外れ、切り立った崖の上にそのお屋敷は建っていた。
「噂ァ?」
「そうそう。あのお屋敷に、最強のポケモントレーナーがいるんだってさ」
ヒナタ少年、8歳。相棒のサニーゴとのコンビで下したトレーナーは数知れず――と言いたいが、あくまでマシロタウンやその付近の町に限った話。早く10歳になって旅に出たい力試しししたいとうずうずしていた矢先、最強≠フ二文字に目を輝かせた。
「どんな奴なんだ?」
「超ヤベー奴らしい。キレると大人でも吹っ飛ばす超ウルトラスーパーエスパーなんだってさ」
「うーむむむ……それ、バトルの強さ関係あるかぁ?」
「そうじゃねーよバカヤロー! いいか、本人もべらぼーにヤバいけど、エスパー少女だからポケモンともペラペラ以心伝心! キラメイジャーの変身並みにやべーってすんぽーよ!」
「うおおおおおおおおすげぇええええええええええ!!」
途中であきれ顔になっていたヒナタも、これには食いついた。足下のサニーゴへキラキラした眼差しを向ける。
「俺のコーラルとも変身合体出来るのか!? マジ!?」
「絶対出来るだろ! なんせエスパーだぜ!? ……ハッ!」
夢中で話していた少年の顔色が変わり、急に声を潜めた。
「……エスパー少女は、世界中の事が見えるし聞こえるんだって、にーちゃんが言ってた」
「もしかして、今聞いてんのか?」
「ど、どうしよう……聞いてたら……どうしよう……」
「心配すんな!」
オロオロしだした少年の背中を、ヒナタがバシッと叩いた。こういうときこそ頼れる男、ヒナタ。縋るような眼差しを向けた少年に親指を立てた。
「そんときゃそんときだ!」
そうだよお前はそういう男だよ、ヒナタ。少年の眼差しの中身が変わった。
とうのエスパー少女はというと――当然だが特に会話を聞いちゃいないし見てもいないし、なんなら興味どころか認知すらせず、健やかな午睡に沈んでいた。