暗闇より


















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51〜60
58.モテモテ3
 下卑たヤジにアルコール、煙草の臭いにチップにカードが踊る音。
 目が覚めたらカジノで天井から吊されていた。

「また夢か……」

 がっくしと肩を落とす。今度は誰が出てくるのか。胡乱な目で見下ろした。眼下のカジノテーブルの両端で、リーシャンとエイパムがそれぞれチップを積んでいる。

「リクは渡さないわ!」
「君もろとも頂くとしよう、レディ」
「なんでお前ら喋ってるんだよ」

 冷静な突っ込みを入れるが誰も聞いちゃいない。リクの背中に、ドカッと何か落ちてきた。「重っ!?」「お助けするー」目をパチクリさせたリクの肩に、見覚えのある球体ボディがよじ登る。「タマザラシ?」「うんしょ、うんしょ……とれない……」タマザラシが紐を解こうと四苦八苦する。

「無理するなよ、その手じゃ無理だ」
「じゃあでっかくなる!」
「えっ」

 むくむくと大きくなり、トドクラーへと進化した。「え嘘重……ッ!?」吊るし紐がブチンと切れ、テーブルへと一直線に落下する。「わー!」「嘘だろぉおおおおおおおおお!?」分かっていても目をつむってしまう。夢で目を瞑るというのも変な話だが――そっと目を開いた。
 リクは、波打ち際にずぶ濡れで座り込んでいた。

「なん……へくしっ!」
「ちゃもっ!」

 元気よくアチャモが駆け寄ってきて、炎を噴きだした。影が差す。視線をあげると、ハンカチが差し出された。

「顔拭きなよ」







「リクちゃん」

 コダチに揺り起こされ、目を覚ました。「カザアナに着いたよ」トラックの揺れは収まっていた。

「良い夢見れた?」
「夢?」

 何かたくさん見たような気がしたが――霞がかったように思い出せない。そのうちにトラックの出入口からソラが呼んだので、リクは立ち上がった。コダチが笑って言う。「リクちゃん、ニコニコしてたよ」

「良い夢だったのかな」
「きっとそうだよ。ね、シャン太ちゃん」
「リ」

■筆者メッセージ
夢落ち三連。夢落ちは便利ですがあんまりやると顰蹙買いそう
( 2021/07/25(日) 13:23 )