57.モテモテ2
布団の中から手を伸ばし、ニョロゾ型の時計を掴んだ。時刻は――(よじ……? ごじ……?)はっきり見えない。すこぶる眠い。妙に固いベッドに頭がふわふわしつつ、リクは目を閉じようとした。すぐ隣から甘い声が囁く。
「起きませんの? リクさん」
「……は、」
とろんとした目を向けた先、長い黒髪の美少女が横たわっていた。桜色の唇が蠱惑的に持ち上がり、白く長い指が頬に触れる。触れた部分からしっとりした熱が広がり、バクバクと心臓が早鐘のように鳴った。顔が痺れるように、熱い。「だ……え、だれ……?」困惑と混乱の質問へ、吐息の温度が感じるような距離で、美少女が答えた。
「いやですわ、ユキノです。試合をした仲じゃありませんの」
「う――うあわあああああああああああ!?」
全力で仰け反った。もにゅ、と反対側の柔らかいものに触れ、反射的に振り向く。眠そうに目を擦るコダチがいた。「んーうむぬ……リクちゃん……?」「うわあアアアアア!!」ベッドから転げるように逃げ出した。(なん……なんでっオレの部屋……えっ!? また夢!?)衝撃も何もない。ふわふわした手応えはまさしく夢。目覚めないと――混乱する頭のまま扉に飛びつくと反対側から開き、大きな猫目に睨まれた。
「こん浮気もんがァ!」
「ら、ライカ!? 違うこれは違っ……!」
「――リク」
ライカの後ろから、聞き覚えのある声がした。羽根モチーフの仮面にウェーブヘアの美少女――もとい、仮面S。表情は隠れているが、悲しそうな雰囲気が伝わってくる。
「お前……」
「ソラだよなソラだよな? 違くてもうよく分かんなくて」
「触らないでください。人違いです!」
「えっ!?」
ワッと仮面Sが身を翻した。その背を追いかけようとして――
◆
――暗闇の中、目を覚ました。
「夢……」
ガタガタ揺れているトラックは、カザアナにいまだ到着しそうにない。「なんなんだ……」全力疾走したような疲れを感じ、もう一度目を閉じた。