56.モテモテ
『――ミナモシティ出身のノーバッヂ! クソ雑魚底辺トレーナーのリクだああああああ!!」
「へっ!?」
「たままー!!」
飛び上がって喜ぶタマザラシ。突然の事にリクは目を白黒させ――ハッとした。(これは、夢だ)司会者を振り返る。エメラルドグリーンの瞳が微笑んだ。
「優勝おめでとうなのです、リク」
司会者がツキネの姿に変わっていた。
「えっ!?」
「お前が欲しい――今すぐ私のものになるのです、リク」
長い金茶の髪がふわりと近づき、蕩けるような眼差しでリクの顎を持ち上げた。指先から頭頂まで、沸騰するようにリクが真っ赤になる。「う、あ、その」
「ちょーっと待った!」
誰かがリクの反対の腕を掴んだ。混乱しながら振り向くと、ニッと笑うホトリがいた。リクを自身の方へ引き寄せ、挑発的に言い放つ。「最初に目をつけたのはあたし。リク君はあたしの」ツキネが剣呑に目を細め、バチッと両者の間に火花が散った。
「いやその……あの!」
「STOPデース!」
この声は――姿を見るまでもなく、アイドルキングがステージ上にひらりと現れた。両手でハートマークを作り、ウインクを放つ。
「リクBoyはMeと一緒にアイドルを目指しマス!」
「ぷらー!」
「まいまーい!」
両肩のプラスルとマイナンは投げキッスをした。もう訳が分からない。助けを求めるように客席に視線を向けると、ヒナタが一人、拍手をしていた。「モテモテだな、リク!」発言はおかしいがこちらの3人よりはおかしくない。「ヒナタ!」3人を振り切ってステージを飛び降り、ヒナタの元へ駆けた。「た、たすけ――!」
伸ばした手を、細い手が受け止めた。ヒナタではない。白髪に赤い瞳の青年が、妖艶な笑みを浮かべて囁く。
「――助けてあげようか、アイドルさん」
◆
パチッと暗闇の中、リクは目を覚ました。カザアナ行きのトラックはまだガタガタ揺れている。
「夢……」
どろりとした眠気が潮のように満ちてきて、再び目を閉じた。