55.待ち人
夜になると、奇妙な脱力感に襲われる。
日に日にその感覚は強まり、反比例して眠りは浅く、悪夢は深く、何度も寝返りを打つ。てん、てん、と身の内から響く音に、リーシャンは目を覚ました。「リ」目を擦り、浮かび上がる。体が酷く重かった。寝ていたのに寝なかったような疲れがあった。ベッドの上まで戻ると、リクは壁の方を向いて眠っている。出会った頃は短かった黒髪も、少し伸びた。ベッドサイドの時計を見やる。ニョロゾ型の時計のお腹は、午前1時。カチコチと小さく聞こえる秒針の音と、くぐもったうめき声が重なった。
「あ……う゛う゛……」
寝返りを打った顔がこちらを向くと、汗びっしょりで、苦悶に歪んでいた。
「リ」
リーシャンはふわりとリクの顔のそばまで行き、癒やしの鈴を奏でた。暗い部屋に優しい音が満ちると、次第に顔が緩んでいく。やがて、すぅ、と穏やかな顔で眠り始めると、リーシャンは音を止めた。
リクが気がついているのかいないのかは、分からないが――おそらく気がついていないだろうと、リーシャンは思う。数日おきに、こういう夜がある。魘されるリクを見るたびに、こんな夜がなくなれば良いのに、と願う。太陽のようにいつも輝いていた顔は笑わなくなってしまって、ずっと不安そうにしている。魘される夜が来るたび、まだウミは来ないのだと、アチャモは戻らないのだと知る。
いつまで、待ったら良いのだろう。
カチコチと、秒針の音がした。立ち止まらない時計の音がした。リーシャンはリクの顔に身を寄せ、目を閉じる。移ってくる人肌の温度にかすかな安心を覚えて、すぅ、と眠りに落ちていった。見る夢はいつも同じで、リクと同じ人とポケモンの夢を見ているのだと思った。浅い眠りを繰り返し、深い悪夢を繰り返す。
――落ちる悪夢の奥底で、待ち人達に手を伸ばす。