暗闇より


















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51〜60
55.待ち人
 夜になると、奇妙な脱力感に襲われる。
 日に日にその感覚は強まり、反比例して眠りは浅く、悪夢は深く、何度も寝返りを打つ。てん、てん、と身の内から響く音に、リーシャンは目を覚ました。「リ」目を擦り、浮かび上がる。体が酷く重かった。寝ていたのに寝なかったような疲れがあった。ベッドの上まで戻ると、リクは壁の方を向いて眠っている。出会った頃は短かった黒髪も、少し伸びた。ベッドサイドの時計を見やる。ニョロゾ型の時計のお腹は、午前1時。カチコチと小さく聞こえる秒針の音と、くぐもったうめき声が重なった。
 
「あ……う゛う゛……」

 寝返りを打った顔がこちらを向くと、汗びっしょりで、苦悶に歪んでいた。

「リ」

 リーシャンはふわりとリクの顔のそばまで行き、癒やしの鈴を奏でた。暗い部屋に優しい音が満ちると、次第に顔が緩んでいく。やがて、すぅ、と穏やかな顔で眠り始めると、リーシャンは音を止めた。
 リクが気がついているのかいないのかは、分からないが――おそらく気がついていないだろうと、リーシャンは思う。数日おきに、こういう夜がある。魘されるリクを見るたびに、こんな夜がなくなれば良いのに、と願う。太陽のようにいつも輝いていた顔は笑わなくなってしまって、ずっと不安そうにしている。魘される夜が来るたび、まだウミは来ないのだと、アチャモは戻らないのだと知る。

 いつまで、待ったら良いのだろう。

 カチコチと、秒針の音がした。立ち止まらない時計の音がした。リーシャンはリクの顔に身を寄せ、目を閉じる。移ってくる人肌の温度にかすかな安心を覚えて、すぅ、と眠りに落ちていった。見る夢はいつも同じで、リクと同じ人とポケモンの夢を見ているのだと思った。浅い眠りを繰り返し、深い悪夢を繰り返す。
 ――落ちる悪夢の奥底で、待ち人達に手を伸ばす。

■筆者メッセージ
修行目的なら800文字ノックは50本くらいで十分な気がします、体感ですが。
目標として掲げたのが100本なのでひとまず奔りきってみます、
( 2021/07/25(日) 13:21 )