暗闇より


















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51〜60
54.ヒナタ君のカザアナチャレンジ
 カザアナタウンに行ったトレーナーはみな、口を揃えてこう言った。あの町、ヤバい。
『ヒトモシが並んでついてくる』『ゲンガーに影から脅かされた』『ヨマワルが何処までも追いかけてくる』『カゲボウズが寝台のそばにびっしり』『ピカチュウのぬいぐるみに突っ込むとブチ切れられる』
 カザアナ行きのバスが行ってしまうと、辺りは急に静かになる。町の地図を広げたヒナタの頭上で、接触灯が点く。サッと、ヒナタの影に何かが潜り込んだ。ヒナタが、振り返った。何もいない事を確認し、地図に視線を戻す。にゅっと影から顔が出た瞬間――バッとヒナタは顔を向けた。

「ゲンガーみーっけ!!」
「けひっ!?」

 ゲンガーが飛び上がり、飛ぶように影を伝って逃げていく。「待て待て逃げんなってお前めっちゃ速いなすげええ速いじゃん!!」「けひーっ!」影から影へ逃げ惑うゲンガーを的確な勘で追いかけ回すヒナタの前に、赤い双眸が割り込んだ。「うひぃー!」「うひぃー!」「うひょひょ!」ヨマワルが上から右から左から現れた! 驚いたヒナタが急ブレーキをかける。「わったっとぉ!?」両手をグルグル回して立ち止まった。接触灯が不規則な点滅を繰り返し、ヨマワルの不気味な鳴き声が取り囲む。ちらっヨマワル達がヒナタを見た。
 興奮で輝いていた。

「すげぇー!! ポルターガイストだぁ!! 初めて見たあああああああああああ!!」

 刹那、接触灯が消えた。

「……あれっ?」

 3秒ほど経ち、パッと明るくなる。
 ヨマワルもゲンガーも、いなくなっていた。しばらく待っていたヒナタだったが、ちっとも姿を見せない。首を傾げてその場を後にした。ヒナタがいなくなった後、ヨマワルにゲンガーが揃って顔を見合わせ、呟いた。
 あいつ、ヤバい。

( 2021/07/25(日) 13:20 )