暗闇より


















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51〜60
53.明るい濃霧の向こう側
 マシロタウン。ド田舎であり、小さなポケモン研究所がある以外に特徴もない。夜になると辺りは真っ暗になる。日が落ちた頃合いを見て、ヒナタとサザンドラは町外れまで来ていた。

「ここら辺なら良い感じだな。飛べそうか?」
「グォ」

 サザンドラが鳴いた。彼は、先日進化したばかりだ。故郷の博士の助言を受けて、二人はマシロへ初回飛行訓練に来ていた。
 目が見えない、ということを、ヒナタは「真っ暗闇の中にいる」と思っていた。だが故郷の博士は首を振った。

『例えるなら、濃霧の中にいる感じ。明るいとか暗いとかは分かるみたいで、ヒナタ君達と冒険してるときは、明るい濃霧の向こうから声が聞こえてるイメージなの』

 そこに急に視覚情報が加わるので多少なり混乱はするが、日が経てばだんだんと慣れていくそうだ。

「よし、行ってこい!」

 サザンドラの体がぐっと深く沈み込む。次の瞬間、翼が大きく膨れ上がった。強い音と共に、6枚羽根が風を打って飛び立つ。ぐんと一気に上昇していったその巨体をヒナタは見送った。
 遮るもののない夜空をサザンドラが真っ直ぐに飛んでいく。つい先日、翼が生えたばかりとは思えない――本能が、教えるのだろう。どう飛んだら良いのかを。
 やがてUターンして戻ってきたサザンドラに、ヒナタが言った。

「ここが俺の生まれた街、マシロだ」

 ぴくり、とサザンドラの片眉が上がった。「日中も飛べるようになったら、次はサイカだ」その次はゴートへ。意図を理解し、サザンドラが目を細める。ヒナタはこれまでの旅を見せようとしていた。濃霧の向こうだった多くの言葉や音達も、視界を得ればまた違って見えてくる。
 
「楽しみだな、オニキス!」

 サザンドラの背中を、ヒナタが叩いた。
 次の瞬間、ヒナタの背中を尻尾がどついた。いっでぇ! と叫ぶヒナタに、サザンドラがフン、と鼻を鳴らした。


( 2021/07/25(日) 13:19 )