暗闇より


















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51〜60
52.美術館
 ミナモシティはリクにとって庭のようなものだ。どこに何があるのか把握しているし、迷っている観光客がいれば案内出来る自信もある。だが、場所≠知っていることと、入った事があるか≠ヘ別問題である。
 ミナモ美術館は、そのひとつ。リクよりもウミの方が堂々と美術館の中へ入っていった。その後にリクも続く。リーシャンとアチャモはモンスターボールの中だ。ポケモンの特性や動作によって美術品が損傷する可能性があるため、美術館内では仕舞うのがルールだった。
 一歩中に入ると、街の喧騒がシャットアウトされた感覚に陥る。自身の靴音が妙に響くような、静謐な雰囲気だ。展示室への受付で台帳に名前を書き、A4の紙一枚を受け取る。「これは?」ひそっとリクはウミに尋ねた。歩きながらウミが答える。「展示室の地図。例えばあそこ――あの絵は、5番の炎のダンス≠セよ」
 一緒に絵に近づいた。ガラガラの絵だが、知っている姿と少し違う。体が黒く、頭の骨には独特なマークが入っている。骨棍棒には炎が灯っており、闇夜に火花が散るような舞踏の絵だ。横には作者名や説明文がついていた。このガラガラはアローラ地方独特なもので、炎のダンスを踊る風習があるらしい。絵画を真面目に見たのは初めてのリクだったが、この絵が凄いと言うことは感覚的に分かった。じっと眺めていると、かすかな焦げた匂いや炎の熱さが伝わってくる。
 前に来たことがあるウミは、落ち着いて二度目の鑑賞をしていた。しかし、一枚の絵画の前で足を止めた。「どうしたんだよ」「……入れ替えたのかな。前と違う絵だ」
 立ち止まった絵画には、ゴミだらけの路地裏でひなたぼっこをするベトベターが描かれていた。作者不明の作らしく、説明文はない。タイトルだけ載っていた。
 ゴミ溜め≠ニ。

( 2021/07/25(日) 13:19 )