51.若気の至り
――ゴートシティ・クロックタワー。
柱時計のような摩天楼に、今宵も若いトレーナー達が吸い寄せられる。チップ稼ぎに焦るトレーナー達をカモに、常連客が手ぐすねを引く。
「――インチキだ!」
青年が椅子を蹴って立ち上がった。顔色は真っ青で、テーブルには黒のチップが山と積まれている。テーブルに散らばったカードの表の合計数は20。対する相手は21。通称、ブラックジャックと呼ばれるゲームだ。選んだカードの合計数字が21に近いほど強く、22以上になれば敗北が決定する。
「21が10連続するなんて絶対におかしい!! イカサマ以外あり得ない!」
「そうかしら」
対面の相手が、きょとんとする。とろんとした目つきに、たっぷりとした蜂蜜色の髪を上品に結った妙齢の女性だ。その隣には、お人形のようにクチートが座っている。「くーちゃんはどう思う?」「グル」さぁ、とクチートが肩を竦めた。
「イカサマに違いない! なぁ、アンタもそう思うだろ!?」
女性の隣の少年に、青年は縋るような目を向けた。仕立ての良いシャツに半ズボン、煤けた金髪の少年は、それまで無言の無表情を決め込んでいた。だが話を振られた途端、ニヤニヤと、荒っぽいのに妙に品のある声で言った。
「どうだったかなァ……間抜けなアンタが、運を落としただけじゃねぇの?」
「なん……ッふ、フザケルなァ!」
激昂した青年が突進した。その体が、途中でぴたりと止まる。少年の背後からスリープがのっそり現れた。青年は喚きながら吹っ飛ばされ、床にたたきつけられるとうずくまって泣き出した。女性がのほほんと告げる。
「あらあら。駄目じゃない、あんまり虐めちゃ」
「へいへぇい」
「負けたのはごっちゃんも一緒でしょ?」
「……うっせーな。さっさとカネ返し終えてやんよ」
少年は半眼で青筋を立てた。その横では、スリープがぼりぼりと尻を掻いていた。