41.先客
訓練も好きだし、任務も好きだ。
しかし、座学は苦手なコダチは、時々逃げる。隠れ家はいくつか決めているが、今日は既に先客がいた。
「寝てるー……」
大口を開けて、赤毛の青年が熟睡していた。いつもコダチが横になる絶好の場所にどーんと場所をとっている。「むー……」じっと顔を見つめ、はて、どこかで見た顔だな、とコダチは首を傾げた。思い出せない。諦めた。青年の隣に腰を下ろす。心地よい風が吹き、コダチは目を細めた。
「気持ち良いなぁ」
眼下に広がるのは、のどかなサイカタウンの町並み。今日は天気も良いし、気温もちょうど良い。こんな日に訓練や任務があればピクニックみたいで楽しいだろうに――そうではないのが、レンジャーの辛いところ。
ここはレンジャーユニオンの屋根だ。目につくかと思いきや、意外にもみな、上を見ない。自分の目線でものを探すので、誰より高い目線の場所はとっておきの隠れ場所なのだ。しかも屋根の勾配はそこそこ急だ。こんな場所で落ち着こうとする人間もそうそういない。だからますますバレない。
熟睡している青年とて、バランスを崩せば真っ逆さまに転がり落ちるだろう。コダチもよくこの場所で昼寝をするが、青年のように熟睡まではしたことがない。凄いなぁ、と見ていると、青年は寝返りを打った。ずり、とバランスが崩れ、あ、とコダチが思った瞬間、屋根を転がり落ちていった。
「わ――あああああああ!」
コダチは追いかけ、屋根ギリギリに飛びついた。刹那、黒い6枚羽根が舞い上がる。サザンドラだ――怒ったような、呆れたような鳴き声を上げ、青年を掴んで飛んでいた。ごめんごめん、と青年が謝り、そのままどこかへ飛んでいく。
その声と、あっけらかんとした背中を見送り、コダチはぽむ、と手を打った。
「あー分かったぁ! ヒナタさんだ!」
噂に聞く、カイトのライバル兼現チャンピオン。「えーびっくりしたなぁ」呟き、さてとばかりに、空いた場所に寝転がった。