暗闇より - 41〜50
49.感情
 ラルトスは、周囲の人間の気持ちを敏感に察知する。特に、トレーナーの明るい感情に触れることで、ラルトスもより美しく育つという。
 ――それは分かるが、ソラはこのラルトスをどう育てたものか悩んでいた。ここはナギサタウンのポケモンセンター。窓の外はとっくに日が落ち、旅のトレーナーの姿もまばらだ。クロバットはモンスターボールの中で、ラルトスはソラの隣にちょこんと座っている。
 ラルトスは、カザアナからナギサへ出たとき、迷い込んでいたのを保護した個体だ。助けたソラから片時も離れようとしないので、そのまま仲間に加えた。ただ問題は――自分は明るい性格ではない、とソラが自覚していることだった。むしろ暗いとすら思う。

「ラルトス。俺と一緒にいても、本当に大丈夫か? 無理はしてないか?」
「フィフィ!」

 ラルトスが首を横に振り、角が薄い青に輝いた。「……もしかしてその角、人の感情で色が変わるのか?」「フィ」イライラしているトレーナー、笑顔で駆けていく街の子供、ぼんやりと夕飯を考える主婦。街を歩いたとき、幽かに色が移り変わっていくのを見て、不思議に思っていた。ラルトスが首肯し、ふむ、とソラは考える。

「……俺がこの先、悪い感情を抱く事があれば教えてくれ」

 ラルトスが申し訳なさそうにうなだれた。感情が読み取れると言っても、心の中の考えまで読み取れる訳ではないらしい。ソラが慌てて手を振る。

「いや、確かにお前の為でもあるんだけど、俺のためでもあるんだよ。大丈夫。……どうかな」
「フィー……フィ」

 こくり、と控えめのラルトスが頷いた。気持ちを抑えるのは難しい。表に出すまいと思うほどに、澱のように胸の中で淀んでいく。(もっとしっかりしなくちゃな)ソラはまだ小さなラルトスの頭を撫で、息をついた。

( 2021/07/25(日) 13:17 )